バイオテクノロジー

アゾ色素

色素と特定芳香族アミンについて

還元分解 繊維製品を染色する染料の中で、化学構造の中にアゾ結合をもつアゾ染料は、主要な染料です。また、顔料も存在します。
 アゾ染料、アゾ顔料等のアゾ色素は、何らかの作用により、アゾ結合(-N=N-)が還元分解し、芳香族アミン化合物(芳香環-NH2)を生成することがあります。芳香族アミンの中で24種の物質が、世界保健機関(WHO)の外部機関である国際がん研究機関 (IARC)が公表している発がん性リスクの一覧に記載されています。これらの発がん性リスクのある芳香族アミンを「特定芳香族アミン」と呼んでいます。
 アゾ色素は、皮膚表面の細菌、腸内細菌、肝臓などで還元分解し、特定芳香族アミン化合物を生成すると考えられます。
 ヨーロッパや中国、韓国などでは、既に特定芳香族アミンを生成するアゾ染料について、皮膚と長時間接触する繊維製品への使用が規制されています。下表の化学構造式をクリックすると、NITE化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP)に掲載されている国内外の化学物質の法規制・有害性情報等が閲覧できます。


特定芳香族アミン化合物 (24種類)



No.1 4-Aminobiphenyl
4-アミノジフエニル
IARC Group 1
C12H11N
Mol. Wt.: 169.22


No.2 Benzidine
ベンジジン
IARC Group 1
C12H12N2
Mol. Wt.: 184.24

No.3 4-Chloro-o-toluidine
4-クロロ-2-メチルアニリン
IARC Group 2A
C7H8ClN
Mol. Wt.: 141.60



No.4 2-Naphthylamine
2-ナフチルアミン
(別名ベータ-ナフチルアミン)
IARC Group 1
C10H9N
Mol. Wt.: 143.19


No.5 o-Aminoazotoluene
2-メチル-4-(2-トリルアゾ)アニリン
IARC Group 2B
C14H15N3
Mol. Wt.: 225.29

No.6 2-Amino-4-nitrotoluene
2-メチル-5-ニトロアニリン
IARC Group 3
C7H8N2O2
Mol. Wt.: 152.15



No.7 p-Chloroaniline
パラ-クロロアニリン
IARC Group 2B
C6H6ClN
Mol. Wt.: 127.57


No.8 2,4-Diaminoanisole
2,4-ジアミノアニソール
IARC Group 2B
C7H10N2O
Mol. Wt.: 138.17


No.9 4,4’-Diaminobiphenylmethane
4,4'-メチレンジアニリン
IARC Group 2B
C13H14N2
Mol. Wt.: 198.26


No.10 3,3’-Dichlorobenzidine
3,3'-ジクロロベンジジン
IARC Group 2B
C12H10Cl2N2
Mol. Wt.: 253.13
 

No.11 3,3’-Dimethoxybenzidine
3,3'-ジメトキシベンジジン
IARC Group 2B
C14H16N2O2
Mol. Wt.: 244.29


No.12 3,3’-Dimethylbenzidine
3,3'-ジメチルベンジジン
(別名オルト-トリジン)
IARC Group 2B
C14H16N2
Mol. Wt.: 212.29


No.13 3,3’-Dimethyl-4,4’-
diaminobiphenylmethane
4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジフエニルメタン
IARC Group 2B
C15H18N2
Mol. Wt.: 226.32
       
No.14 p-Cresidine
2-メトキシ-5-メチルアニリン
IARC Group 2B
C8H11NO
Mol. Wt.: 137.18

 


No.15 4,4’-Methylene-bis-
(2-chloroaniline)
3,3'-ジクロロ-4,4'-ジアミノジフエニルメタン
IARC Group 1
C13H12Cl2N2
Mol. Wt.: 267.15

No.16 4,4’-Oxydianiline
4,4'-ジアミノジフエニルエーテル
IARC Group 2B
C12H12N2O
Mol. Wt.: 200.24
 

No.17 4,4’-Thioianiline
4,4'-ジアミノジフエニルスルフイド
IARC Group 2B
C12H12N2S
Mol. Wt.: 216.30

No.18 o-Toluidine
オルト-トルイジン
IARC Group 1
C7H9N
Mol. Wt.: 107.15
 

No.19 Toluylendiamine
2,4-ジアミノトルエン
IARC Group 2B
C7H10N2
Mol. Wt.: 122.17

No.20 Trimethylaniline
2,4,5-トリメチルアニリン
IARC Group 3
C9H13N
Mol. Wt.: 135.21


No.21 o-Anisidine
オルト-アニシジン
IARC Group 2B
C7H9NO
Mol. Wt.: 123.15


No.22 2,4-Xylidine
2,4-ジメチルアニリン
IARC Group 3
C8H11N
Mol. Wt.: 121.18

No.23 2,6-Xylidine
2,6-ジメチルアニリン
IARC Group 2B
C8H11N
Mol. Wt.: 121.18


No.24 4-Aminoazobenzene
パラ-フエニルアゾアニリン
IARC Group 2B
C12H11N3
Mol. Wt.: 197.24

※ 和名は、政令における名称である。

 

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日本での状況

日本では、日本繊維産業連盟及び日本皮革産業連合会が,それぞれ自主基準を策定しました。

分析方法の日本産業規格(JIS)が制定されたことから、NITEでは、分析ができる試験所の認定【PDF:268KB】を開始しました。

さらに、平成27年4月8日、厚生労働省より「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律第2条第2項の物質を定める政令」の一部が改正されました。この改正により、24種の特定芳香族アミンを生成するアゾ染料の使用が規制されました。分析方法は、平成27年7月9日、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律施行規則の一部を改正する省令」により、定められました。

平成28年4月1日から家庭用品規制法における特定芳香族アミンを容易に生成するアゾ染料の規制が始まります(厚生労働省のページへリンク)

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NITEでの解析

皮膚表面でのアゾ色素の還元分解は、皮膚常在菌により起こると考えられています。26株の皮膚常在菌について、菌の培養液中に色素を投入すると芳香族アミンが生産されることが、報告されています 文献 1)。この分解には、アゾリダクターゼ(AzoR1)という酵素が関わっていることが分かっています。
 文献 1) Stingley et al. J Med Microbiol. 2010 Jan; 59: 108–114.

実際の着用時では、生地から染料が溶出し、皮膚表面に付着して菌により還元分解される場合と、生地へ菌が付着して還元分解する場合の2つが考えられます。NITEでは、生地上で皮膚常在菌がアゾ色素を芳香族アミンに分解するかどうかを確認する試験を行いました。

NITEでは以下の手順で解析を行いました。
 皮膚常在菌はStaphylococcus aureus NBRC 14462、アゾ色素はC.I.Direct Red 39を代表例として選定しました。C.I.Direct Red 39で染色した生地を液体培地で湿らせ、S. aureus NBRC 14462をその上に植菌しました。培養後、生地より代謝物を抽出し、GC/MS, FT-ICR-MS, LC/MS/MSで分析を行いました。
 試験の結果、多くの代謝産物が検出されました。試験結果については、経済産業省に報告し、政令改正に際して技術面で貢献しました。

  • GC/MS:ガスクロマトグラフ質量分析計
  • FT-ICR-MS:フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計
  • LC/MS/MS:液体クロマトグラフ質量分析計

代謝産物生成芳香族アミンの分析

特定芳香族アミン化合物の検出試験結果

アゾ色素を分解する酵素反応について、「微生物遺伝子機能検索データベース(MiFup)」及び「微生物有害性遺伝子情報データベース(MiFup Safety)」で検索できます。

NFUNC_0073 Aromatic azo compounds degradation (MiFupへのリンク)
NRULE_0236 FMN-dependent NADH-azoreductase (AZOR)
NRULE_0237 NADPH azoreductase (AZR)
NRULE_0238 NAD(P)H azoreductase (AZOB)
 

また、NBRCでは文献1)で報告されている、アゾ色素還元分解能を持つ微生物の同等株について、分譲を行っています。(ページ内カタログURLから菌株の購入が可能です。)


Dermacoccus nishinomiyaensis ATCC 29093 = NBRC 15356
Rothia kristinae (異名:Kocuria kristinae) ATCC 27570 = NBRC 15354
Micrococcus luteus ATCC 4698 = NBRC 3333
Micrococcus lylae ATCC 27566 = NBRC 15355
Staphylococcus cohnii subsp. cohnii ATCC 29974 = NBRC 109713
Staphylococcus hominis subsp. hominis ATCC 27844 = NBRC 110726
Staphylococcus saprophyticus ATCC 15305 = NBRC 102446
Staphylococcus simulans ATCC 27848 = NBRC 109714
Staphylococcus warneri ATCC 27836 = NBRC 109769
Staphylococcus xylosus ATCC 29971 = NBRC 109770
Kytococcus sedentarius ATCC 14392 = NBRC 15357
Staphylococcus haemolyticus ATCC 29970 = NBRC 109768
Corynebacterium xerosis ATCC 373 = NBRC 16721
Staphylococcus epidermidis ATCC 12228 = NBRC 12993
Staphylococcus aureus ATCC 25923 = NBRC 14462

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