流出油の分解実験
石油には飽和炭化水素、芳香族炭化水素等の様々な成分が含まれています。また、好気的な石油の分解、嫌気的な石油の分解のように、分解には様々な微生物が関与しています。環境中に漏出した石油は、風や波、太陽光などの自然の作用を受けて変化し、微生物分解を受けて消失していくと考えられます。
微生物の活動は周囲の環境によって大きな影響を受けるため、石油分解菌の活動に適した環境条件になっていなければ、石油の分解は起こらないか、起こっても分解速度は遅いです。逆に、活発に活動できる環境が整っていれば、石油は速やかに分解されるはずです。
海洋流出油のバイオレメディエーションは、微生物が石油を分解する際の律速因子となっている窒素・リンを外部から供給することにより石油分解菌を活性化させて分解を速めるというものなので、「流出油の分解実験」の章でもこの点について述べたいと思います。
微生物の活性化と有効性試験
石油流出事故が起こった時、速やかにバイオレメディエーションを行なうためには石油分解菌を活性化させる窒素やリンを含んだバイオレメディエーション剤が必要です。バイオレメディエーション剤には、主に①栄養塩水溶液、②緩効性栄養塩(農業用肥料など)、③親油性栄養塩(イニポールEAP22など)の3タイプがあります。
また、バイオレメディエーション剤の有効性を調べるためには、㋐フラスコを用いた閉鎖系試験、㋑潮の干満をシミュレートした海浜シミュレート試験、㋒小規模フィールド試験の3種類が挙げられます。㋐の試験は最も簡便な方法であり、試験装置はフラスコとシェーカーのみです。フラスコに海水、油、試験製剤を入れ、シェーカーで振とう培養して油分解速度を求めます。一方、㋑の試験は、潮の干満をシミュレーションできる装置を用いて行なわれる方法です。この試験では、干満の影響による栄養塩の流出速度を調べることができます。そのため、栄養塩の効果の持続性を調べることができ、有効な適用量および適用頻度を知るのに役立ちます。なお、㋒については、実際の海岸に油をまいて行なわなければならず、日本では実施が難しいと思われます。
有効性試験で使用する石油には、アラビアン・ライト原油など日本に多く輸入されている石油を用いるようにします。可能であれば、数種類の石油で試験を行ない、それぞれの石油に対する有効性を確認しておくと良いでしょう。特に、重油などの重質な石油は軽~中質な石油よりも微生物分解されにくいため、数種類の石油で試験を行なう場合には、その一つに重質な石油を加えるべきです。なお、試験に用いる石油は、加熱処理などによって人工的に風化させてから使用するようにします。
有効性試験では、以下のような項目の確認が望まれます。
- コントロール(製剤を含まない群)と有意差のある微生物分解促進効果
- 製剤の最適濃度
- 効果の持続時間
- 製剤使用濃度の上限と下限
- 干満の影響による栄養塩類の流出速度
- 干満の影響による油の流出速度
- 界面活性成分などが含まれていた場合、干満の影響によるその成分の流出速度
最後に、バイオレメディエーションの環境に対する影響を確認するためには、油汚染地域の生態調査を実施し、バイオレメディエーション適用地域と非適用地域の結果を比較する必要があると思われます。調査期間は、なるべく長期の方が望ましい(1年以上)です。
- 「石油流出事故に対する対応」の参考
- www.pcs.gr.jp/doc/jsymposium/12170/96_koichi_yunoki_j.pdf
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