嫌気的な石油の分解
石油の主成分である炭化水素は、長い間、酸素がなければ分解しないと考えられてきました。海底深く沈降したり地面に埋もれてしまった石油は、酸素が供給されないためなかなか分解が進みません。しかし、最近になって嫌気条件下で炭化水素を分解する微生物の存在が明らかになってきました。
炭化水素は、嫌気条件下では脱窒菌、硫酸還元菌、鉄還元菌、メタン生成菌によって分解されます。これらの微生物は、硝酸、硫酸、鉄(㈽)などを使って炭化水素を分解し、その結果として窒素、硫化水素、鉄(㈼)、メタンなどを発生させます(【表1】)。また、炭化水素以外の化合物、硫黄・窒素・酸素化合物も、硫酸還元菌や脱窒菌によって嫌気的に分解されることが確認されています。
このように、石油中の成分は嫌気的な条件でも分解されることが明らかになってきましたが、その分解速度は好気的な分解に比べるとかなり遅いです。海底深く沈降したオイルボールや地下深く浸透した石油は、おそらく嫌気的な微生物分解を受けていると思われますが、なかなか分解が進みません。酸素の不足する場所では、石油汚染は長期間残留してしまうのです。
嫌気的条件下でも石油の微生物分解は起こるため、バイオレメディエーションを行うことはできます。例えば、硫酸還元菌や鉄還元菌が必要とする硫酸塩や鉄(㈽)を添加することによって分解速度を速めることができるかもしれません。嫌気条件下でのバイオレメディエーションは、最近注目の集まっている研究分野であり、酸素の供給が難しい地下水などへの適用が期待されているところです。
化学式 | 自由エネルギーの変化 ( Δ G0’) |
|
---|---|---|
脱窒反応 | C6H6+6NO3- → 6HCO3-+3N2 C6H5(CH3)+7.2NO3-+0.2H+ → 7HCO3-+3.6N2+0.6H2O C6H4(CH3)2+8.4NO3-+0.4H+ → 8HCO3-+4.2N2+1.2H2O C6H5(C2H5)+8.4NO3-+0.4H+ → 8HCO3-+4.2N2+1.2H2O C10H8+9.6NO3-+1.2H2O → 10HCO3-+4.8N2+0.4H+ C14H10+13.2NO3-+2.4H2O → 14HCO3-+6.6N2+0.8H+ CH4+1.6NO3-+0.6H+ +3H2O→ HCO3-+0.8N2+4.8 H2O C6H14+7.6NO3-+1.6H+ → 6HCO3-+3.8N2+4.8 H2O C8H18+10NO3-+2H+ → 8HCO3-+5N2+6 H2O C16H34+19.6NO3-+3.6H+ → 16HCO3-+9.8N2+10.8 H2O |
-496.2kJ/mol NO3- -493.6kJ/mol NO3- -492.4 kJ/mol NO3- -495.0 kJ/mol NO3- -492.9 kJ/mol NO3- -490.6 kJ/mol NO3- -475.9 kJ/mol NO3- -492.8 kJ/mol NO3- -493.1 kJ/mol NO3- -493.7 kJ/mol NO3- |
鉄還元反応 | C6H6+30Fe(OH)3+24HCO3-+24H+ → 30F2CO3+72H2O C6H5(CH3)+36Fe(OH)3+29HCO3-+29H+ → 36F2CO3+87H2O CH4+8Fe(OH)3+7HCO3-+7H+ → 8F2CO3+21H2O C16H34+98Fe(OH)3+82HCO3-+82H+ → 98F2CO3+246H2O C6H5(CH3)+36α-FeO(OH)+29HCO3-+29H+ → 36F2CO3+51H2O |
-39.6 kJ/mol Fe -39.1 kJ/mol Fe -35.4 kJ/mol Fe -39.1 kJ/mol Fe -12.3 kJ/mol Fe |
硫酸還元反応 | C6H6+3.75SO42-+1.5H++3H2O → 6HCO3-+3.75H2S C6H5(CH3)+4.5SO42-+2H++3H2O → 7HCO3-+4.5H2S C6H4(CH3)2+5.25SO42-+2.5H++3H2O → 8HCO3-+5.25H2S C6H5(C2H5)+5.2SO42-+2.5H++3H2O → 8HCO3-+5.25H2S C10H8+6SO42-+2H++6H2O → 10HCO3-+6H2S C14H10+8.25SO42-+2.5H++9H2O → 14HCO3-+8.25H2S CH4+SO42-+H+ → HCO3-+H2S+H2O C6H14+4.75SO42-+3.5H+ → 6HCO3-+4.75H2S+H2O C8H18+6.25SO42-+4.5H+ → 8HCO3-+6.25H2S+H2O C16H34+12.25SO42-+8.5H+ → 16HCO3-+12.25H2S+H2O |
-49.6 kJ/mol SO42- -45.6 kJ/mol SO42- -43.5 kJ/mol SO42- -47.6 kJ/mol SO42- -44.3 kJ/mol SO42- -40.7 kJ/mol SO42- -17.0 kJ/mol SO42- -44.2 kJ/mol SO42- -44.6 kJ/mol SO42- -45.6 kJ/mol SO42- |
メタン生成反応 | C6H6+6.75H2O → 2.25HCO3-+3.75CH4 +2.25H+ C6H5(CH3)+7.5H2O → 2.5HCO3-+4.5CH4 +2.5H+ C16H34+11.25H2O → 3.75HCO3-+12.25CH4 +3.755H+ |
-32.5 kJ/mol CH4 -28.5 kJ/mol CH4 -28.6 kJ/mol CH4 |
お問い合わせ
- 独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター バイオ技術評価・開発課(かずさ)
-
TEL:0438-20-5764
住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 地図
お問い合わせフォームへ