化学物質管理

CMC letter No.1(創刊号) - [特集・2]社会的に関心が持たれている化学物質の実態把握とリスク管理のあり方の提言 ~リスク評価管理研究会~

NITEでは化学物質の安全性に関する情報を収集整備して広く社会に提供しています。特に社会的に関心の高い化学物質については研究会を設置して生産、使用、廃棄等の実態について詳細な情報を収集するとともにそれらの内容を検討し、リスク管理のあり方を提言してきました。これまでに、ノニルフェノール、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)及びビスフェノールAの3物質を取り上げ、検討してきましたので、その活動についてご紹介します。

はじめに

997年頃から内分泌系への影響が懸念される物質が社会的な関心を呼び、1998年に当時の環境庁から“環境ホルモン戦略計画SPEED’98―化学物質リスト(65物質)”が公表されると、社会の不安感は高まってきました。中でも、ノニルフェノール、フタル酸エステル類及びビスフェノールAについての関心が強くなる状況にありました。行政では内分泌かく乱作用についての試験方法の開発や有害性試験及び環境モニタリングに取り組み、産業界では企業の連携の下に各種試験の実施、及び情報提供をするといった動きがみられました。

しかし、排出実態と環境濃度の関係などは十分に検証されていなく、リスク評価に基づく管理が十分に行われていない状況でした。そこで、これらの関係について科学的知見を収集し、リスク管理のあり方について検討するために、NITE内に上記の3物質についての研究会を設置しました。

まず2001年11月に「ノニルフェノールリスク評価管理研究会」を発足させ、次いで2002年7月に「フタル酸エステル類(フタル酸ビス(2-エチルヘキシル))リスク評価管理研究会」と「ビスフェノールAリスク評価管理研究会」を設置しました。

これらの研究会の特徴はその委員構成にあります(図1参照)。生産、用途に関する正確な情報を得るために関係業界の代表の方に委員になっていただきました。また、地方自治体の方にも委員になっていただき、自治体としての取り組みについて報告していただきました。さらに大学や公的研究機関の専門家の方に委員になっていただき、それぞれの専門的な立場から意見を出していただきました。

図1 研究会の委員構成

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研究会での検討内容

研究会での主たる検討内容は、その化学物質の製造企業から1次ユーザー、さらに川下のユーザーをへて廃棄に至るまでの化学物質の流れ(ライフサイクル)とその量の把握にありました。そしてそれぞれのステージでのその化学物質の使用実態を調査し、それらの各排出量の推定(放出シナリオを作成)することも目標としました。即ち、リスク評価は有害性評価と暴露評価に基づいて行われますが、その暴露評価のための実態把握に焦点を当てたわけです。

実態調査をするに当たっては、多くの工業会と個別企業及び研究機関に対してアンケート調査やヒヤリングを広範囲に行い、また必要な項目についてはさらに深く掘り下げて行いました。川下の情報を得ることはなかなか難しいことでしたが、多くの工業会等のご協力をいただき、産業界の構造や化学物質の使用実態に関する情報を収集することができました。

一方、国内及び海外でこれまでに行われてきた主な有害性評価とリスク評価についても情報を収集し、上記の実態調査とともに中間報告書としてまとめました。これら中間報告書について、ノニルフェノールは2003年 8月、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)は2003年5月及びビスフェノールAは2004年5月にそれぞれ公表しました。

研究会としての次の段階はリスク管理のあり方を提言することになりますが、リスク管理を行うためには科学的に行われたリスク評価に基づくことが前提になります。それにはこれら3物質についてはNEDO 1プロ*1として詳細リスク評価が行われることになっていましたので、その評価結果を受けて管理のあり方をまとめることにしました。研究会とNEDO 1プロは図2に示しました様に相互に補完される関係になっています。詳細リスク評価書の担当者には研究会の委員にもなっていただいていましたので、詳細リスク評価の経過を研究会で報告していただき研究会での議論を進めていきました。研究会として詳細リスク評価の内容を把握した上で管理のあり方について議論し、「リスク管理の現状と今後のあり方」としてまとめ公表するに至りました。

図2 研究会とNEDO1プロの相互関係

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リスク管理のあり方の作成

リスク管理のあり方については「―(化合物名)―のリスク管理の現状と今後のあり方」というタイトルで公表していますが、これを提言するに当たり、3研究会とも「化学物質管理を計画する際の留意点」として、自主管理の重要性とライフサイクルにわたるリスク管理の必要性について述べています。第一点として自主管理については、その化学物質を扱っている当事者が一番良くその性質を理解しているので、法令遵守に加えてその他必要な管理を自主的に行うことが求められているとしています。また、化管法*2の第3条に定められている「化学物質管理指針」に基づいて継続的な化学物質管理を行うことも必要であるとしています。第二点については、製品の全ライフサイクルに亘って管理する必要があり、そのためには全体を俯瞰して総合的に評価して取り組むべきで、場合によっては公的機関の関与も必要であるとしています。

「リスク管理のあり方」は産業界、行政及び国民を対象としており、次に示すような活用を期待しています。

  • 産業界:今後のこれら物質の管理方策への活用
  • 行政:化学物質管理の促進などの政策の立案に資する資料としての活用
  • 国民:産業界・行政の措置の正しい理解への活用

これらを前提において、詳細リスク評価結果を基にして管理のあり方を提言しましたが、これについては3物質についてそれぞれ内容が異なりますので以下に簡単にポイントを示します。

なお、ここでは細部についてまでは表現できませんので、正確には原文を参照していただきたいと思います。

「ノニルフェノール及びノニルフェノールエトキシレートのリスク管理の現状と今後のあり方」(2004年10月)

ノニルフェノールとそれを原料とする界面活性剤のノニルフェノールエトキシレートも環境水中で分解してノニルフェノールになることから、両者を合わせたリスク管理のあり方について提言しています。この詳細リスク評価では生態リスク評価だけを行っており、メダカの個体群増殖率を指標として種として存続し得るか否かで評価しています。内分泌系への影響については、生存や生殖についての直接的な関係が未解明であることなどから今後の課題としています。その結果、リスクが懸念される水域は8河川で、その内2000年以降減少傾向が見られない地点は3か所であるとし、所轄の自治体と産業界で協力して対策を検討していくこととしています。

また、暴露要因が主として産業活動に起因するものであるとして、産業界の自主的取組を紹介し、他の界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)への代替が進んでいることを紹介しています。代替物質への転換は慎重に行わなければなりませんので、研究会では代替物質のリスク評価の重要性を提言しています。

「フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)のリスク管理の現状と今後のあり方」(2005年1月)

詳細リスク評価では、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)は生態リスク評価及びヒト健康リスク評価とも、リスクは懸念されるレベルにはないと結論しています。これを受けて管理のあり方としては、現状の管理を続ける必要はあるものの、これ以上の強化は必要なく、また法規制等についてもこれ以上の追加は必要ないとしています。

「ビスフェノールAのリスク管理の現状と今後のあり方」(2005年11月)

詳細リスク評価では、ビスフェノールAは生態リスク評価及びヒト健康リスク評価とも、リスクは懸念されるレベルにはないと結論しています。ビスフェノールAで問題視されてきた低用量での生殖影響については、現時点では従来のリスク評価の考え方を変えるものではないとしていますが、国民の不安感に対して積極的かつ継続的な情報開示を求めています。また、リスク管理のあり方としては、現状の管理を継続する必要はあるものの、これ以上の強化は必要ないとしています。

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公表後の反響

公表後、いくつかの工業会及び個別企業にヒヤリングしたところ、これら3物質のメーカー及び一次ユーザーの段階では、「リスク管理の現状と今後のあり方」をそれぞれのユーザーに配布したり、場合によっては持参して説明しているという企業もありました。また、工業会によっては「リスク管理の現状と今後のあり方」をホームページ上に掲載し、解説を付しているところもありました。更には工業会内で説明会を開催したところもあったようです。このように活用されていることから、管理のあり方は関係する業界及び個別企業の自主管理やリスクコミュニケーションに役立っているものと思われます。また、国や地方自治体の報告書や論文に研究会の中間報告書が引用されている例もあります。

本年1月31日に開催された「NITE化学物質管理フォーラム2006」では、3研究会の委員長による「科学的リスク評価に基づく化学物質管理のあり方」と題するパネルディスカッションが行われました。ここでは研究会を振り返って総括的な議論がなされ、更に検証が必要な部分があり今後もこれらの物質の動きを見守っていく必要があるが、いろいろな利害関係者が一同に会し各種検討がされて有意義であった等の意見が出されました。

今後も引き続き産業界、行政そして国民の反応を把握していきたいと考えています。

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おわりに

社会的に関心の高かった3つの化学物質について研究会を設置して生産から川下の用途、さらには廃棄に至るまで調査し、中間報告書として公表し、さらに「リスク管理の現状と今後のあり方」について提言したわけですが、今後も研究会方式で化学物質の実態について詳細に調べることが必要になることがあると思います。その時は、今回の3物質の研究会の経験を生かしてさらにより良いものにするべく取り組んで行きたいと考えています。

<参照>
「中間報告書」及び「リスク管理の現状と今後のあり方」についてはNITEホームページを参照して下さい。
http://www.safe.nite.go.jp/risk/kenkyukai.html
*1 NEDO 1プロ
:「特集・1」を参照して下さい。
*2 化管法
:「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」

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