日本沿岸での生分解性プラスチック浸漬試験から得られた微生物とそれらの分解活性
NITEは、岩手県、島根県、広島県、鹿児島県の各沿岸実海域で、生分解性プラスチックの浸漬試験を令和3年から4年の2年間に合計6回実施しました。その試験では、分解が進んだ生分解性プラスチックの付着微生物叢(plastisphere)1)データの取得と、微生物株の分離、それら株の分解活性の測定を行い、株の公開を開始しました。それらの概要について解説します。
上市されている3種の生分解性プラスチックフィルム(PHBH、PBSA、PCL)を最大60日間浸漬したplastisphereから18,000株以上(種の重複を含む)の株を分離しました。同時に、plastisphereの微生物叢データを取得し、付着した微生物の種とその割合などを解析しました。このデータと地理的特性や環境データを組み合わせて解析することで、plastisphere中で優占化した微生物種(ASV, Amplicon Sequencing Variants)や、フィルムの崩壊度と相関関係を示す微生物種を特定しました。
分解フィルムのplastisphereにおける存在割合で上位を占めるなどの特筆すべき株については、NITEで整備したHS-GC/BID※1を用いた生分解活性測定法(後述)や、MicroRespを用いた生分解活性測定法2-5)、液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS/MS)による分解産物パターンの解析法を用いて、生分解性プラスチックの分解活性の測定 と解析を実施しました。図1 には、それら一部の株の16S rRNA遺伝子の塩基配列による系統関係と株の生分解活性の結果を併せて示しました。Strain No.に“NBRC”が付されている株はすでにNBRCより入手が可能です。ゲノム情報も登録されていますので、皆様の研究に是非お役立てください。
※1:ヘッドスペース-ガスクロマトグラフ/バリア放電イオン化検出器
NITEでは、分離した株の生分解活性測定を引き続き実施し、実海域での生分解性プラスチック分解に関与する系統群を明らかにすると共に、そのゲノム情報等のデータ付加も進めてDBRPやホームページで公開していきます。
(更新日2024.3.22)
生分解活性を測定したNBRC株や未公開株の系統関係および生分解活性
今回公開したNBRC株や生分解活性を測定した未公開株の系統関係、およびHS-GC/BIDを用いた測定法によるPBSA、PCL、PHBHに対する生分解活性を図1に示しました。さらに、浸漬20日以降のPBSA、PCL、PHBHフィルムのplastisphere中で存在割合が上位300位以上であったASVの配列と相同性が高い株については、菌叢(微生物叢)解析列に印をつけています。
図1に示した株の系統関係は、大きく分けると、Alphaproteobacteria、Betaproteobacteria、Gammaproteobacteriaの3綱に属します。Gammaproteobacteriaには、3種いずれかの素材に対して比較的高い生分解活性を示す株が多くみられました。特に、Oceaniserpentilla sp. NBRC 116188はPBSA、Aliiglaciecola sp. NBRC 116595やSessilibacer corallicola NBRC 116591はPHBH、Thalassolituus maritimus NBRC 116585はPCLに対して比較的高い生分解活性を示しました。
Alphaproteobacteria、Betaproteobacteriaに属する株は、3種いずれのプラスチックにも特筆すべき活性を確認できませんでした。
図1 本実海域試験で分離した一部の株の16S rRNA遺伝子配列に基づく系統関係とHS-GC/BID法による生分解活性測定結果
※2 生分解活性測定結果の色分けは~1.5、~3.0、~6.0、~10.0、10.0~とした
※3 属名までの同定作業を行っていない株は、属する科の名前で表記。
●:分離株の16S rRNA遺伝子の塩基配列が、微生物叢解析において上位10位以内で検出された配列と100%の相同性を示す株。
○:分離株の16S rRNA遺伝子の塩基配列が、微生物叢解析において上位10位以内で検出された配列と99%以上の相同性を示す株。
▲:分離株の16S rRNA遺伝子の塩基配列が、微生物叢解析において上位300位以内で検出された配列と100%の相同性を示す株。
△:分離株の16S rRNA遺伝子の塩基配列が、微生物叢解析において上位300位以内で検出された配列と99%以上の相同性を示す株。
HS-GC/BIDを用いた生分解活性測定法
微生物株を、唯一炭素源としての生分解性プラスチックフィルム片と共に、装置のオートサンプラー用密閉バイアルで2週間培養し、生分解性プラスチックが分解、資化されることで発生、蓄積したCO2量を測定します(図2)。本分析法は、時間が掛かるプラスチック分解を短期間で評価することに優れており、特にスクリーニングのようなフェーズで有効です。図1には生分解性プラスチックを添加しないコントロール区とのピーク面積値の比率をもとにしたプラスチック分解度で表示しました。なお、HS-GC/BID法による生分解活性測定には市販品のプラスチック素材を用いているため、添加剤を含んでいることや自然加水分解により生じた部分分解物が素材表面に存在していると考えられます。そのため、弱い活性を示したこれらの株については、それらに対する分解活性を見ている可能性がありますので、その点をご考慮の上でご利用ください。
図2 HS-GC/BID法を用いた生分解活性測定
参考文献
1)Zettler et. al., Life in the “Plastisphere”: Microbial Communities on Plastic Marine Debris. Environ. Sci. Technol. 47, 13:7137–7146 (2013).
2)寺尾ら, LC/MS/MSを用いた生分解性プラスチック分解物分析による海洋微生物のプラスチック分解様式の解析, 日本農芸化学会2022年度大会, 2022年.
3)森ら, LC/MS/MS分析、GC分析による海洋微生物のプラスチック分解様式の解析, 日本農芸化学会関東支部2022年度大会, 2022年.
4)森ら, 海洋での生分解性プラスチック分解に関わる微生物の探索~分解生成物の機器分析によるアプローチ, 日本農芸化学会2023年度大会, 2023年.
5)Mitsumori et. al., Application of MicroRespTM for quick and easy detection of plastic degradation by marine bacterial isolates. Mar. Environ. Res. 196:106430 (2024).
海洋生分解性プラスチック事業について
本事業はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトで得られた成果です。
- 海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業
- 生分解開始スイッチ機能を有する海洋分解性プラスチックの研究開発
お問い合わせ
- 独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター バイオ技術評価・開発課(かずさ)
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TEL:0438-20-5764
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