世界の石油流出事故
大量の石油がタンカーにより海上輸送されているため、その輸送途上では、時には流出事故が発生します。下記【表1】は、近年の代表的な石油流出事故を示したものです。この表を見ると、ほぼ毎年のように、世界のどこかで大規模な石油流出事故が発生していることがわかると思います。
年 | 場所 | 原因 | 流出量 |
---|---|---|---|
1989 | アラスカ、プリンス・ウィリアム湾 | エクソン・バルディーズ号座礁 | 34,850t |
1990 | メキシコ湾 | メガボルグ号爆発 (バイオオーグメンテーションが実際に使用された第一号) |
5.1ガロン |
1991 | ペルシャ湾 | 湾岸戦争 | 202,500~540,000t |
1992 | マラッカ海峡 | ナガサキ・スピリット号衝突 | 13,000t |
1992 | スペイン北西岸、ラ・コルーニャ湾 | エージアン・シー号座礁 | 73,000t |
1993 | 英国、シェットランド島南西沖 | ブレア号座礁 | 85,000t |
1993 | スマトラ島北西アンダマン海 | マースク・ナビゲータ号衝突 | 25,000t |
1994 | トルコ、ボスポラス海峡 | ナシア号衝突 | 25,500t |
1994 | アラビア半島フジャイラ沖 | セキ号衝突 | 15,000t |
1995 | 韓国、霊水港沖所里島南西海岸 | シー・プリンス号座礁 | 81,600t |
1996 | 英国、ミルフォード・ヘブン入口 | シー・エンプレス号座礁 | 50,000~70,000t |
1997 | 日本海 | ナホトカ号座礁 | 5,304t |
1997 | 東京湾 | ダイヤモンド・グレース号座礁 | 1,317t |
1997 | シンガポール海峡 | エボイコス号衝突 | 28,463t |
1999 | フランス沖 | エリカ号沈没 | 11,000t |
2000 | アラブ首長国連邦 | タンカー沈没 | 重油約200t |
2000 | シンガポールセントーサ島(インドネシア領海) | パナマ船籍のタンカー座礁 | Nile Brend原油7,000t |
2002 | 伊豆大島波浮港の東約500Mの海岸 | ハルヨーロッパ号座礁 | 1,300KLの燃料用C重油が搭載されていたが、ほとんどは抜き取りされていた |
2002 | イエメン南部 | 爆発で開いた大きな穴から大量の原油が流出した模様 | 原油約40万バレル |
2002 | スペイン北西部ガリシア地方沖 | プレスティージ号が沖合いで真っ二つに折れ、沈没 | 10,000t以上 |
2007 | アメリカ サンフランシスコ | コスコ・ブサン号 | 重油約58,000ガロン(約220,000L) |
2007 | 韓国 | Hebei Spirit号 | 重油10,800t |
2009 | オーストラリア・モートン島沖 | 貨物船から大量の重油が流出(60kmに渡る海岸が汚染された) | 石油約230t |
2010 | アメリカ メキシコ湾 | 石油掘削施設の爆発 | 原油約440万バレル |
大規模流出事故を防ぐため、国際海事機関(IMO: International marine Organization)の条約では、1996年以降竣工の中~大型タンカーと船齢25年を超える既存船について、二重船殻構造(ダブルハル)が義務付けられるようになりました。しかし、大量の石油が常に海上を行き来している以上、いくらタンカーの構造を強化したとしても、流出事故発生の可能性がゼロになることはあり得ないでしょう。
海上に大量流出した石油は海洋の生態系に重大な影響を与えるほか、漁業や観光業など経済的損失も甚大なものとなります。このような被害を最小限に食い止めるためには流出油をなるべく早く回収・除去する必要があり、常日頃から石油流出事故に備えた防除体制を整えておくことが重要であると考えられます。
日本では、1997年、日本海でナホトカ号重油流出事故、東京湾でダイヤモンド・グレース号原油流出事故があいついで発生し、石油流出事故に対する関心が高まりました。特に、ナホトカ号事故では大量の重油が日本海沿岸地域に漂着して漁業および観光業に大きな打撃を与えたため、大規模石油流出事故への対応体制の重要性が痛感されることになりました。日本は大量の石油を輸入しており、またナホトカ号のように日本海を経由してロシアに重油を運ぶタンカーも存在することから、日本近海ではいつまた大規模流出事故が起きても不思議ではありません。大規模流出事故に備え、バイオレメディエーションを含めた流出油への対応体制を整えておくことは、海洋国、日本にとって必要不可欠なことでしょう。
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