バイオテクノロジー

その他の石油流出事故におけるバイオレメディエーション適用事例

海外の事例

エクソン・バルディーズ号事故でのバイオレメディエーションの「成功」は、クリーンアップ関係者や環境微生物学者の間で大きな関心を集め、石油流出事故へのバイオレメディエーション適用が進むかに思われました。しかし、エクソン・バルディーズ号事故以降、大きな石油流出事故が何回かあったにも関わらず、大規模なバイオレメディエーションは行われてきませんでした。バイオレメディエーションの適用が進まなかった理由は、国による法制度や体制の違いなどもありますが、有効性と安全性に対する信頼が未だ得られていないためでしょう。

しかしながら、小規模なバイオレメディエーション試験は、幾つかの石油流出事故で行われています(【表1】)。これらの試験の中には、バイオレメディエーション試験としては調査期間が短すぎるものもあり、また、サンプルのバラツキのためにバイオレメディエーションの効果が確認できなかった場合もあります。バイオレメディエーションは微生物の分解作用を利用しているため、物理的処理や化学的処理のようにすぐに効果が現れるものではありません。そのため、最低でも1~2ヶ月の調査期間は必要であろうと思われます。また、バイオレメディエーションの有効性を確認するためには、サンプル間のバラツキを克服することが鍵となっています。一方、バイオレメディエーション処理による環境への悪影響は、これらの事例では観察されませんでした。

【表1】エクソン・バルディーズ号事故以降のバイオレメディエーション適用事例
事故名・場所 発生
年月日
適用場所 処置方法 結果 評価
Apex Barge 事故
(テキサス州
ガルベストン湾)
原因:タンカー衝突
流出量:触媒原料油3000m3
1990年
7月28日
海岸
湿地
散布剤:
Alpha BioSea(微生物製剤)
流出事故から8日後、Alpha BioSeaを直径15mのプロットに散布。
  • 散布前のサンプルと散布後96時間経過したサンプルの間で有意な差はなかった。
  • 湿地プロットでは、散布後、視覚的な改善が見られた。
  • 96時間は、バイオレメディエーションの調査期間としては短すぎる。
Mega Borg 号事故
(テキサス海岸の約90km沖)
原因:タンカー爆発
流出量:原油45m3
1990年
6月8日
海面
散布剤:
Alpha BioSea(微生物製剤)
事故後、7日間で、海水で水和した50kgのAlpha BioSeaが、16ヘクタールのオイルスリックに散布された。
  • 一面に拡がった茶色のオイルスリックが、まだらの茶色や黄色に変色して分散し、16時間後には消失していた。
  • 海洋生物に対する悪影響は観察されなかった。
  • 調査期間が短すぎる。
  • 観察された効果が、界面活性剤の効果である可能性を否定できない。
Prall’s Island 事故
(ニュージャージー州
アーサー・キル水路)
原因:パイプライン破損
流出油:燃料油
1990年
1月
砂利海岸
散布剤:
カスタムブレン(緩効性栄養剤)
潮間帯に2つの浅溝を掘ってカスタムブレンを散布した。バラツキを防ぐため、油含量のわかっている堆積物を袋に入れて溝に埋め、92日間にわたって定期的に袋からサンプリングした。
  • 栄養剤散布区で、油の微生物分解が上昇した傾向は見られなかった。
  • 炭化水素含量にバラツキが大きかったため、栄養剤散布の影響が分からなくなった可能性がある。
Seal Beach事故
(カリフォルニア州
シール・ビーチ沖)
原因:油田爆発
流出量:原油8000-12000m2
1990年
10月31日
湿原
散布剤:
INOC 8162(下水処理用微生物製剤)、Miracle Gro 30-6-6 (栄養剤)
事故の1週間後、INOC 8162とMiracle Gro30-6-6が散布された。その2週間後、Miracle Gro30-6-6のみが追加散布された。
  • 35日間のモニタリングの結果、栄養剤散布区と未処理区との間に違いは見られなかった。
  • 室内実験で微生物製剤の効果が確かめられたが、微生物製剤の効果は確認できなかった。
  • 塩湿地では、栄養剤散布のみでは効果を発揮するのは難しい。
  • 酸素の枯渇が制限要因だったのかもしれない。
Sea Empress号事故
(イギリスミルフォード・ヘブン)
原因:タンカー座礁
流出量:原油72000t
1996年
2月15日
転石海岸
散布剤:
栄養塩水溶液(週1回散布)、緩効性栄養剤(月1回散布)
9m×0.9mのプロットを9つ作り、栄養塩水溶液区、緩効性栄養剤区、未処理区を3プロットずつ設定した。試験は栄養塩の不足する夏に始められ、12ヶ月間モニタリングされた。
  • 栄養塩水溶液区、緩効性栄養剤区ともに原油の生分解速度は増加した。
  • 海水中の栄養塩濃度には影響を与えなかった。
  • 環境に対する悪影響は観察されなかった。
  • 栄養塩水溶液、緩効性栄養剤ともに効果があったが、散布の手間から緩効性栄養剤の方が対費用効果があると言える。

(出典:Swannell et al. 1996. Field Evaluations of Marine Oil Spill Bioremediation. Microbiological Reviews 60, p342-365.他より作成)

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