石油の毒性
石油の主成分である炭化水素は、一般に低分子のものほど毒性が高いです。そのため、低分子成分を多く含む石油ほど毒性が高い傾向にあり、ガソリン>A重油>軽油>灯油>B重油>原油>C重油の順に毒性が高くなっていきます。また、低分子成分は蒸発や溶解によって時間の経過と共に失われていくため、風化が進むほど流出油の毒性は低くなっていきます。逆に、流出直後~数日間の流出油付近の大気には、毒性の高い低分子成分の蒸気が高濃度に存在している可能性があり、防除作業を行う人々や周辺住民の健康に悪影響を及ぼす心配があります。そのため、防除作業を行う人々は活性炭マスクなどの防毒マスクを装着することが望ましいと考えられます。
石油の炭化水素成分の生化学的な毒性として最も特徴的なものは、細胞膜に対する作用です。細胞膜は、脂質ニ重層と呼ばれる構造をとっており、膜の外側が親水性のリン酸基、膜の内側は親油性の脂質で構成されています(【図1】)。海水中に溶解した炭化水素成分は、脂質と親和性があるために細胞膜の内部に入り込み、細胞膜の分子構造を破壊してしまいます。分子構造の破壊された細胞膜は、細胞膜の重要な機能である選択的透過性(必要なものを選択的に取り込んだり排出したりする機能)が失われてしまうため、ひどいときには細胞の壊死に至ります。生物に現れる具体的な症状としては、魚などエラ呼吸をする生物ではエラ上皮細胞が破壊されて窒息死したり、腎臓や脾臓に障害が現れたりします。
石油が周囲の環境と生物に与える具体的な影響については下記をご覧ください。
石油流出事故 -流出石油の運命-
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