石油の成分
石油は、炭素(C)と水素(H)からなる化合物、「炭化水素」を主成分としています。石油に含まれる炭化水素は、分子量も構造も様々で、石油は多様な炭化水素の混合物となっています。
石油には、炭化水素の他にも硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)を含む化合物が含まれており、微量ではありますが金属成分も存在しています。
原油中に存在する化合物は数万にも及ぶと言われ、そのすべてが分かっているわけではありません。また、それらの化合物の組成は、産地や油田によっても異なっています。しかし、化合物ではなく、それらを構成する元素で見てみると、原油の元素組成はほぼ次のとおりになっています。
炭素 83-87% | 水素 11-14% | 硫黄 0.1-3% |
窒素 0.1-1% | 酸素 0.1-1% | 金属 0.001-0.1% |
(1)炭化水素
石油の主成分は炭化水素です。炭化水素は、炭素原子と水素原子だけからなる化合物で、疎水性が高く水には溶けません。飽和炭化水素は別名アルカンといい、炭素原子が鎖状に連なった鎖状アルカンと炭素鎖が環状構造になった環状アルカンに大別されます。不飽和炭化水素は原油中にはほとんど含まれていませんが、分子内に1つの2重結合を持つ「アルケン(オレフィン)」は、原油の精製によって生成します。
アルカン
鎖状アルカンはパラフィンとも呼ばれ、一般式CnH2n+2で表されます(【図1-A】)。炭素鎖が一直線状になっていて分枝鎖を持たないものは、n-アルカン(直鎖状アルカンまたはノルマルアルカン)と呼ばれます。炭素数4のブタン(C4H10)までは、常温・常圧では気体となるため、石油中では他の液体炭化水素に溶解した形で存在しています。最も分子量の小さいメタン(CH4)は、天然ガスの主成分です。
炭素鎖に他の炭素鎖(分枝鎖)が結合して樹枝状になっているものは、イソアルカン(分枝状アルカン)と呼ばれます。炭素と水素の数が同じで構造が異なるものは異性体と呼ばれますが、n-アルカンとイソアルカンは異性体の関係になっています。異性体の数は、炭素数が多くなり、例えば炭素数4のブタン(C4H10)には、n-ブタンと2-メチルプロパン(イソブタン)の2つの異性体しかありませんが、炭素数5のペンタン(C5H12)には、n-ペンタンと2-メチルブタン(イソペンタン)、2,2-ジメチルプロパンの3つの異性体があります。
アルカン系炭化水素は、ほとんどの原油で多く含まれている炭化水素です。
シクロアルカン
環状アルカンは、炭素鎖が環状構造をとっている炭化水素で、一般式CnH2nで表されます(【図1-B】)。シクロアルカン(シクロパラフィン)またはナフテンとも呼ばれています。石油中に含まれるシクロアルカンは、炭素数5のシクロペンタンまたは炭素数6のシクロヘキサンを基本骨格としており、これにアルキル側鎖(直鎖アルカンの分枝鎖)が付いたり、複数の環が結合して多環になっているものもあります。中には、ホパンのように、複数の環が結合した複雑な構造の化合物もあります。
なお、シクロアルカンは、原油の産地によって含まれている量にバラツキが見られます。
【図1】飽和炭化水素の例
芳香族炭化水素
「芳香族炭化水素」はベンゼン環を持つ化合物で、一般に芳香性があるため、この名で呼ばれています。ベンゼン環は6個の炭素原子が2重結合と1重結合で交互に結合した環状構造で(【図2】)、これにアルキル側鎖が付いたり複数の環が縮合して多環になっていたりします。芳香族炭化水素は、原油中にはそれほど多く含まれていません。
ベンゼン環を1つしか持たないものとしては、ベンゼン、トルエン、キシレンといった化合物があり、これらの化合物はBTXと呼ばれています。BTXはガソリンの40%以上を占める主要成分で、各種石油化学製品の原料ともなっています。しかし、原油中にはあまり含まれていないため、石油精製の過程でアルカンやシクロアルカンから生成されています。2つまたはそれ以上のベンゼン環を持つ多環芳香族炭化水素は、英語のPolycyclic Aromatic Hydrocarbonsの頭文字をとってPAHと呼ばれています。PAHには、2環のナフタレン、3環のフェナントレンおよびアントラセンなどがありますが、石油中には4環以上の環を持つものも含まれています。PAHには、アルキル基やナフテン環を含むものもあり、複雑な構造をとっているものもあります。PAHは常温・常圧では主に固体で、石油中では他の液体炭化水素に溶解した形で存在しています。
【図2】芳香族炭化水素の例
(2)非炭化水素
石油の中には、炭化水素の他にも硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)を含む化合物が含まれており、微量ながら金属成分も含まれています。これらの成分の含有量は原油の産地や種類によってかなり異なっています。石油中の非炭化水素成分は、着色や着臭の原因となって石油製品の品質劣化を招いたり、装置や機械を傷める原因となるため、好ましくない成分です。硫黄や窒素は、燃焼すると有毒な硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)となって大気汚染を引き起こしたり酸性雨の原因となったりします。そのため、非炭化水素成分は不純物として、石油精製の過程で極力取り除かれています。
硫黄化合物
原油は必ず硫黄化合物を含んでおり、その多くは有機硫黄化合物として存在しています。石油に含まれる有機硫黄化合物には、アルキル鎖にSH基が付いたメルカプタン(チオール)R-SH(Rはアルキル基:CnH2n+1)、硫黄原子に2つのアルキル基が付いたサルファイドR-S-R’、環状構造をしたチオフェンやチオフェン環にベンゼン環が結合したベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンなどがあります(【図3-A】)。無機硫黄化合物としては、硫化水素(H2S)が主に含まれています。
硫黄化合物は、一般に不快な臭いがし、腐食性が高いため装置を傷める原因にもなります。燃焼すると亜硫酸ガス(SO2)をはじめとする有害な硫黄酸化物(SOx)となって大気汚染を引き起こします。
窒素化合物
原油中の窒素化合物はすべて環状化合物からなっています。5員環のピロールや6員環のピリジン、これらにベンゼン環が結合したキノリンやインドールといった化合物が含まれています(【図3-B】)。4つのピロール環からなるポルフィリンのように金属をキレートした化合物もあり、硫黄化合物に比べて複雑で構造不明なものも多いです。ピロール環やピリジン環はベンゼン環と似た性質を持っているため、芳香族化合物との分別が難しく、硫黄化合物よりも除去しにくいです。
石油中に窒素化合物が存在すると、時間の経過とともに色相が悪化し、またガム生成の原因にもなるため品質劣化を招きます。また、精製に用いられる触媒を劣化させることもあります。燃焼すると、一酸化窒素(NO)や二酸化窒素(NO2)などの窒素酸化物(NOx)となり、光化学スモッグの原因となります。
【図3】石油中の非炭化水素化合物の例
酸素化合物
石油中に含まれる酸素化合物は、ナフテン環にカルボキシル基(-COOH)が付いたナフテン酸、芳香族炭化水素の水素が水酸基(-OH)に置換したフェノール類、アルキル基にカルボキシル基が付いた脂肪酸(CnH2n+1COOH)などです(【図3-C】)。ナフテン酸はシクロアルカンを主成分とする原油中に多く含まれています。
酸素化合物も、石油製品の品質上好ましくないため、精製の過程で取り除かれています。
金属化合物
原油中には極めて微量ながら金属成分も含まれています。バナジウム、ニッケル、鉄、銅、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、アルミニウム、コバルト、チタン、スズなど約30種類の金属元素が確認されており、数ppmから数10ppmの濃度で存在しています。これらの金属成分は、燃焼後、灰となって残ります。
金属成分のうち、最も多く含まれるのはバナジウムとニッケルで、ポルフィリンなどにキレートした有機金属化合物として存在している場合が多いです。一方、ナトリウムやマグネシウム、カルシウムなどは、多くの場合、無機塩として存在しています。
バナジウムやニッケルなどの一部の金属は、石油精製の過程で使われる触媒に害を与えることがあります。
(3)カラムクロマトグラフィーによる原油の四成分分画
これまで述べてきたとおり、原油には様々な成分が含まれており、その数は数万にも及ぶといわれます。これら多様な成分をすべて同定・定量するのは、まず不可能であり、現実的とはいえません。そのため、原油中の成分はカラムクロマトグラフィーによって分けられる4つの画分で論じられることが多いです。4つの画分は、飽和炭化水素画分、芳香族炭化水素画分、レジン画分、アスファルテン画分と呼ばれ、主に極性の違いによって分けられています。(【図4】)。
飽和炭化水素画分と芳香族炭化水素画分は、(1)で述べた飽和炭化水素と芳香族炭化水素の画分にあたり、炭素と水素のみからなる画分です。レジンとアスファルテンの画分には、炭素と水素のほか、硫黄や窒素、酸素など炭化水素以外の元素を含む化合物が含まれています。
【図4】アスファルトのカラムクロマトグラフィーによる分析
レジンは融点のやや高い樹脂状の物質で、常温では粘度の高い黒色の液状物質となります。平均分子量は1,000前後で、主に長鎖のアルキル基や多環芳香族を含む化合物から構成されています。石油中では低分子の液体炭化水素に溶け込んで存在しており、石油の粘性に大きな影響を与えています。低分子の窒素化合物や酸素化合物は、この画分に含まれます。アスファルテンは常温では固くて脆い黒褐色の粉状物質です。平均分子量は2,000前後で、硫黄・窒素・酸素を含む多環芳香族やシクロアルカンが架橋結合した複雑な構造の高分子化合物から構成されています。有機金属化合物のほとんどもこの画分に含まれます。石油中では、コロイド状に分散して存在しています。
【図5】には、4つの画分と分子量、極性、生分解性の関係を示しました。分子量、極性の小さい飽和炭化水素画分がもっとも分解されやすく、分子量と極性が大きくなるほど分解されにくくなっていきます。もっとも重質な画分であるアスファルテンは、ほとんど生分解が起こらないと考えられています。
【図5】アラビアンライト原油のTLC-FID(薄層クロマトグラフ-水素炎イオン化検出法)のクロマトグラフと分画成分の化学的特性
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