バイオテクノロジー

バイオスティミュレーションとバイオオーグメンテーション

バイオレメディエーションには、大きく分けて2通りの手法があります。1つはバイオスティミュレーション(biostimulation:stimulation=刺激)、もう1つはバイオオーグメンテーション(bioaugmentation:augmentation=添加)です。

バイオスティミュレーションは、汚染地域に元々生息している微生物を"刺激"して、汚染物質の分解を促進させようという手法です。微生物が増殖するためには、エネルギー源となる有機物(この場合は汚染物質)が存在するだけでは不十分で、温度・pH ・水分・酸素・栄養塩(窒素、リンなど)など様々な環境要因が整っていなければなりません。これらのうちのどれかが欠けていると、それが制限要因となって、微生物の増殖は抑えられ、その結果として汚染物質の分解も進まなくなります。

そこでバイオスティミュレーションでは、人為的な操作を加えて自然環境を微生物の増殖しやすい条件に近づけてあげます。そうすることにより、微生物の増殖が"刺激"され、汚染物質の分解が促進されることを狙うのです。ただし、微生物の増殖しやすい条件に近づけるといっても、自然環境中では自ずと限界があります。実際の操作として行われるのは、一般的には、栄養塩の添加と酸素の供給です。

一方、バイオオーグメンテーションは、あらかじめ培養しておいた分解菌を汚染地域に"添加"する手法です。バイオスティミュレーションでは、汚染地域に元々分解菌が存在することが前提になっています。したがって、分解菌の数が極端に少ない場合や、あるいは全く存在しない場合、バイオスティミュレーションは行うことができません。そのような場合に、人為的に分解菌を"添加"して、汚染物質を分解させようとするのが、バイオオーグメンテーションです。

添加される分解菌は、対象となる汚染地域から単離されることもあれば、全く別の場所から単離された分解菌であることもあります。いずれの場合も分解菌を大量増殖させて、汚染地域に投入します。散布後は、バイオスティミュレーションと同様、微生物の増殖に適した条件を整えてやらなければなりません。そのため、バイオオーグメンテーションは、バイオスティミュレーションよりも多くの手間とコストがかかるのが一般的です。現在、バイオレメディエーションは、土壌汚染の修復法として徐々に実用化されつつあります。アメリカでは、実際の汚染サイトがバイオレメディエーションで修復された例も多く、日本でも、土壌汚染規制の強化に伴い、ゼネコンなどで実用化が進められています。こうしたバイオレメディエーションの実施例は、ほとんどがバイオスティミュレーションによるものです。

一方、バイオオーグメンテーションは、有機塩素化合物や多環芳香族化合物など自然環境中での分解が遅く、分解菌数も少ないと思われるような汚染物質の浄化に期待が持たれていますが、未だ実験段階の域を出ていません。バイオスティミュレーションに対する浄化速度の優位性が確立されていないほか、添加する分解菌の安全性やコストなどクリアしなければならない課題は多いようです。

2000年、千葉県君津市のトリクロロエチレン汚染サイトで、(財)地球環境産業技術研究機構(RITE)による日本初のバイオオーグメンテーション実証試験が行われました。この試験は汚染サイトから単離された分解菌を使って行われ、バイオオーグメンテーションの有効性が報告されています。今後、このような実証試験が積み重ねられ、安全性やコストの問題が解決されれば、バイオオーグメンテーションの実用化も進んでいくかもしれません。

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