バイオテクノロジー

有害物質を分解する微生物達

有害物質と微生物

我々人間にとって有害な物質全てが他の生物にとっても有害であるかというと、必ずしもそういう訳ではありません。例え人間には分解することのできない有害な化学物質があったとしても、地球上のどこかに生息する何かしらの微生物がこの物質に対する分解能力を有している、ということは良く見受けられることです。下記に、人類にとっては有害ですが、微生物により分解可能な物質を紹介します。

微生物による分解が可能な物質

大まかな分類 農薬、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)、ダイオキシン、DDT、PCB、重金属、窒素化合物(脱窒)、石油及び石油系化合物、揮発性有機塩素化合物(トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなど)、プラスチック、防腐剤、有機溶剤、重金属有機塩素化合物
周りの環境 廃水、空気中の臭気成分、大気中の各種汚染物質、海洋中の各種汚染物質、河川の各種汚染物質(水道水の精製なども含む)、土壌の各種汚染物質、アオコ、ゴミ・生ゴミ

※この他にも様々な物質が微生物により分解されることがわかっています。

それではなぜ、微生物達は、人間の科学力では処理することができないような物質を、分解・浄化することができるのでしょうか?

この理由の一つとして、微生物の新しい環境への適応性の高さがあります。これはちょうど、病原性微生物が薬剤への耐性を新規に獲得するのと同じ仕組みで生じます。

ある病原菌に対抗するための薬ができても、しばらくすればその薬に抵抗力のある菌が生じ、薬の効果が無くなってしまうことがあります。これは一般の方々にも広く認知されていることでしょう。微生物の遺伝子は絶えず変異をしており、その中で新たに獲得した形質が周りの環境にあったものならば、その個体は生き残ることができます。特に、有害な物質の存在する環境下においては、その物質に対して抵抗力のある変異が生じた微生物だけが生き残ることができます。例えば、有害な薬剤が周りの環境に添加され、このままでは生命活動を維持することができないとします。この薬剤に対して抵抗力の無い通常の細胞は、これに対処しきれずに死んでいきますが、その一方で、まれにこの物質を分解したり無害な物質に変化させることができる個体が現れることがあります。有害物質の分解能力を偶然手に入れた個体だけは、その後もその環境下で生き続けていくことができます。そして、新規に手に入れたこの能力は、その個体の子孫にも受け継がれていきます。また、細菌の種類によっては、他の個体(他の種間でも)と遺伝子をやり取りすることができるものもあります。この方法を使えば、有害物質に対して耐性を持った菌から直接的に、有害物質に対抗するための遺伝子を受け取ることができます。

このような仕組みで、有害物質が存在するような環境中でもそれに耐性を持つ生物が現れてくるのです。新しい菌は、今この瞬間も地球のどこかで生まれ続けていると言ってもよいでしょう。そしてその結果、我々人間には分解することができない有害物質を分解・浄化することができる微生物が生じるのです。細菌の有害物質に対する耐性の獲得能と、その速さは、バイオレメディエーションの研究にとって非常に重要な事柄となっています。

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馴化(じゅんか)

ある有害物質に対しての耐性を、人工的に獲得させる手法があります。これは馴化(じゅんか)と呼ばれています。馴化とはもともと心理学の用語で、ある刺激に対して初期は反応を示していたのに対し、時間が経つにつれ徐々に反応が薄れていくような現象を指します。

細胞の場合、ある有害物質の添加が起きた時に、初期は死んでしまう個体が多いのに対し、しばらく経つとその物質に対する耐性を持った個体が現れることがあります。その結果、初期に示したような有害物質に対する反応を全く示さなくなります。この現象を人為的に起こさせ、有害物質に対して抵抗のある微生物を人工的に作り出すことを馴化と呼びます。馴化は研究室の中で容易に行うことができるため、現在多くの場所で研究がされており、天然由来の浄化菌と同様、地球環境の浄化への実用化が期待されています。

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