化学物質管理

CMC letter No.2_trial - [出張報告]

ILSI*1 Health and Environmental Sciences Institute(HESI)
Bioaccumulation of Chemicals Subcommittee In vivo
Bioaccumulation Database Workshop 出席報告

平成17年11月11日~12日

開催場所
:Baltimore Convention Center, Baltimore, Maryland, USA
出席者:
:日本からは、NITE1名(安全審査課 櫻谷)

 

世界が抱えている膨大な種類の既存化学物質をできるだけ効率良く評価するためには、OECDのHPVプログラム*2のように各国が分担し評価作業を実施することの他に、評価技術自体を向上させることも重要であり、ここでも国際的な協力は必要不可欠なものとなっています。

蓄積性においては、一般的に用いられている生物濃縮性試験が非常に高価(一件当たり7万ドル)であることや、これに代わる実用的なin vitro*3試験法が開発されていないことから、評価が必要とされる既存化学物質の種類に比して入手可能な試験データが極めて少ないことが大きな問題となっています。

ILSI HESIのBioaccumulation of Chemicals Subcommitteeは、産学官における世界の専門家が連携して、試験法の改良、データ評価方法の確立、データベース開発、構造活性相関モデル開発等のあらゆる角度から、この問題に取り組む場として設立されました。今回は第2回目のワークショップであり、テーマは、「生物蓄積性試験に関する国際データベースの開発」でした。

ワークショップの最初にセッションでは、既存の蓄積性試験データベースのレビューが行われ、USEPA、Environment Canada、RIVM、USACE、Bourgas大、ExxonMobil、及びNITEが、それぞれが所有する生物蓄積性関連のデータベースについて、その使用目的、項目、ソース、管理方法、公開形態等についてプレゼンテーションを行いました。

NITEの発表では、まず、化審法の概要及びその試験データの取得体系について説明し、新規物質の審査と既存化学物質の安全性点検のため毎年数十件の生物濃縮性試験が取得されていることを紹介しました。ここでは、化審法試験は全てGLP機関で行われ、試験結果は審議会においてレビューされているためデータの質が常に保証されていることを特に強調しました。

そして、これらの試験データの管理は化審法審査支援機関であるNITEが実施しており、新規物質の試験データは非公開であるが、既存物質の試験データは公表していることや、公表されている試験データを収載しているNITEのCHRIP(化学物質総合情報提供システム)について説明し、さらに、これらの試験データは構造活性相関モデルの開発(NEDO「既存化学物質安全性点検事業の加速化」プロジェクト)やバリデーション*4(NITE構造活性相関委員会)に活用されていることを紹介しました。

ワークショップでは、特に難分解性及び残留変化物に対し生物濃縮性試験を行う化審法独自のシステムに関心が集まり、分解性と生物濃縮性の相関性に関すること等に質問が集中しました。他には、USEPAのBCFWIN*5データベースとNITEデータベースに含まれているデータの違いについて質問があり、安全性点検事業で解明された年間数十件程度の最新情報については、NITEのデータベースに常に更新されることを説明しました。

続いて、データベースに登録する論文を査読する際の基準を決めるためのセッション、データベースに搭載する項目を決定するセッション等があり、データベースの構築方法やその仕様の方針が立てられました。NITEのプレゼンテーション内容が参考とされ、決められた仕様としては、非公開データにも対応可能となった点や、代謝物の情報が項目として追加された点が挙げられます。

[所感]

今回、データベース設計の議論に参加したことにより、他国のリスク評価者や構造活性相関モデルの開発者がどのような視点で生物濃縮性試験データを読んでいるか知ることができました。また、他国における未試験既存化学物質の具体的な評価の方法など、多くの有用な情報を聞き出すこともできました。ここで得られた知見は、未点検既存化学物質の蓄積性評価手法の改善など、今後の業務において有効に活用していきたいと思います。

*1 ILSI
:International Life Sciences Institute の略。国際生命科学研究所。健康・栄養・安全・環境に関わる、1978年にアメリカで設立された非営利の団体。
*2 OECDHPVプログラム
:本レターの「特集」をご参照ください。
*3 in vitro
:“試験管内で(の)”という意味。試験管や培養器のような人工環境下での反応を検出する試験をin vitro試験という。
*4 バリデーション
:有効化審査。ここでは、種々の角度から構造活性相関モデルを検証し、特定の使用目的に対し適用可能であるかを評価すること。
*5 BCFWIN
:化学物質の生物濃縮性(BCF:Bioconcentration Factor)を、logKow(オクタノール/水分配係数)から予測するソフトウェア。USEPAより、無料で公開されている。
なお、オクタノール/水分配係数とは、ある化学物質をオクタノールと水に溶かした時のオクタノールと水それぞれに溶けた割合を示す係数で、その値が大きい化学物質ほど、生体内の脂質に吸収される可能性が高いとされている。

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