NBRC設立20周年 ご挨拶
独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NBRC)は、2002年に生物資源機関としての業務を開始して本年度で20周年を迎えることができました。これもひとえに皆様のご指導、ご支援の賜物と心より感謝申し上げます。
1993年に生物多様性条約が発効されたことを受け、我が国の政策ニーズ、産業界や学術界等からの提言等を踏まえ、OECDが提唱する生物資源保存機関(Biological Resource Center ; BRC)のコンセプトに基づいて、2002年4月にNBRCが設立されました。NBRCの設立にあたって、当時の財団法人発酵研究所(現、公益財団法人発酵研究所)が約60年にわたって収集し保存してこられた約15,000株の微生物株を譲り受け、加えて、生物資源保存機関としての業務に必要なノウハウの移管を受けることで、BRCとしての事業を無事に開始することができました。
NBRCは、第2期科学技術基本計画を受けて2001年に策定された 『知的基盤整備計画』 に則って、常に産業利用を視野に入れつつ、細菌やカビ、酵母、微細藻類等の生物遺伝資源の収集、受託、保存、提供を進めてまいりました。国内外の研究者の方々から寄託あるいは譲渡いただいた微生物に加えて、NBRCが独自に収集した微生物、海外の生物資源機関と連携して合同で探索した微生物等を合わせた約95,000株の微生物を、千葉県木更津市のかずさアカデミアパークに所在する事業所において保有するに至っております。世界でも有数の生物資源保存機関に成長しました。
2011年の東日本大震災では、事業者が保有する生産用微生物等の貴重な生物遺伝資源が失われました。この対策として、NBRCは事業者の生物遺伝資源をバックアップ保管するサービスを開始しました。また、2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大し、緊急事態宣言が発出された際にも、NBRCは生物遺伝資源の分譲を止めることなく、ニーズが高まった抗菌、除菌、抗ウイルス、消毒等の衛生関連分野の市場拡大や製品開発に貢献しました。
生物遺伝資源の拡充に加え、保有する生物遺伝資源の利活用促進や情報付加、生物多様性条約への対応や法執行支援にも取り組んでまいりました。生物多様性条約への対応においては、アジア各国・地域の生物資源機関との間で資源移転に関する枠組みを構築しました。法執行支援に関連した業務としては、2004年から特許庁長官の指定する特許微生物寄託機関としての業務を開始し、また、2009年からはカルタヘナ法にかかる法執行支援業務の一環として、経済産業省と連携して、鉱工業利用を目的とした大臣確認申請の支援や事業者からの相談対応に関する業務を開始しました。
生物遺伝資源の利活用促進に向けた取組としては、微生物を活用した地域ブランドの創出支援を行い、地域活性化にも貢献しました。さらに、NBRCが保有する生物遺伝資源に関連した様々な情報やデータを搭載した『生物資源データプラットフォーム』(Data and Biological Resource Platform、略称、DBRP)を構築し、2019年に運用を開始しました。その後、NBRCが保有する微生物のみならず、国内の企業、大学、公設試験機関、研究機関等が保有する有用微生物の情報、国家プロジェクトで得られた有用微生物に関連した情報の搭載も進め、生物遺伝資源及びそれらの関連情報をワンストップで検索し、効率的に利活用につなげるデータプラットフォームとして、多くの方にご利用いただいております。
カーボンニュートラル、化石燃料からの脱却、循環型社会への移行、ウェルビーイング社会の実現等が世界的な課題となる中で、バイオ(生物)の力をうまく生かしながら経済や社会が発展する 『バイオエコノミー社会』 に期待が高まっています。2009年にOECDが発表したThe Bioeconomy to 2030においては、バイオが生み出す市場は、200兆円、GDPの2.7%に及ぶと言われており、医薬品や医療等の分野だけでなく、鉱工業分野、農林水産分野、環境分野での成長も期待されています。我が国においても、2019年に国家戦略となる 『バイオ戦略』 が策定されました。バイオ戦略では、2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現することを全体目標として掲げており、産業界、大学、自治体等が一丸となって取り組んでいます。地球規模の社会課題の解決と持続的な経済発展の二兎を追うことができるバイオエコノミー社会は、今後の世界の潮流になると言われています。
そのような中、微生物の利活用に改めて注目が集まっています。遺伝子情報やゲノム編集技術等を駆使して遺伝子を改変することで所望の物質を効率的に生産できる微生物を構築し、これを用いてものづくりを行う 『バイオものづくり』 に期待が集まっています。また、腸内細菌叢に代表される複合微生物系である 『マイクロバイオーム』 の解析や利活用を通じて、創薬や健康等の分野で新規産業の創出が期待されています。このような新たな潮流の背景として、デジタル化の急速な進展によるデータ駆動型研究開発の加速や微生物の利活用形態の多様化があります。
以上のように、小さな微生物が持つ大きなパワーを産業に生かしていくことこそが、バイオエコノミー社会を作り出す成功の鍵になると言っても過言ではありません。我が国の政策・戦略に基づき、バイオ産業のさらなる発展、そして世界最先端のバイオエコノミー社会の実現に向けて、生物遺伝資源の安定的な提供及び生物遺伝資源に関わる様々な情報の提供をこれからも進めてまいります。加えて、生物遺伝資源を取り扱う上での技術的な支援及び法執行支援等を通じて、生物遺伝資源の産業利用における安全性や信頼性の確保とイノベーション促進の両立に向けた環境の整備にも引き続き取り組んでまいります。職員が一丸となって、安全・安心な国民生活の実現と健全で持続性のある産業発展に貢献するため、真摯に取り組んでまいる所存です。
関係各界の皆様におかれましては、一層のご指導、ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
所長(2023年1月時点) 加藤 愼一郎
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