調査の目的・方法
背景 / 調査の目的
インドネシアのジャカルタ湾に位置するパリ島の礁湖で、原油が漂着した砂浜海岸におけるバイオレメディエーションの効果を定量的に把握するために実証試験を行いました。
調査の目的
- 砂浜海岸に漂着した石油のバイオスティミュレーション処理による浄化効果と地中鉛直方向への移動性(汚染拡散状況)の確認。
- バイオスティミュレーションにより海砂中の油分濃度を低減するために必要な緩効性肥料の最適な供給量及び供給方法の確認。
調査の方法
実証試験サイトをインドネシア、ジャカルタ湾沖に位置するパリ島に設けました。パリ島は、南北に長い周囲約5kmの有人島(人口約700人)です。島の西端にインドネシア科学院(LIPI)の分室があり、そこから約1km沖の礁湖に、ヒューム管(コンクリート管)を6基据え付けて、その中に中空カラムを設置しました(【図2】)。外海の波が高いときでも礁湖は比較的波が低く、試験の安全を確保できます。また、ヒューム管と中空カラム内を用いることにより、周辺海域の汚染を防ぐことができます。
中空カラムの仕様
実証試験には、【図3】に示す透明塩化ビニル製の2種類の中空カラムを用いました。一方が海砂採取用カラムであり、他方が間隙水採取用カラムです。中空カラムは、深度方向に対して6個の個別カラムを接合しており、試験に必要な強度・安定性を有します。
海砂採取用カラム及び間隙水採取用カラムに共通する仕様は、以下のとおりです。
作業性の確保、海水による腐食防止、及びカラム内の油拡散状況の把握のため、透明塩ビ管を用いました。個別カラムの上下両端にフランジをもち、塩ビ製のボルトとナットを用いてカラムとカラムを接合・固定する構造であり、スパナのみで組立可能です。カラム間の接合部には、耐溶媒性のパッキンを使用して接合部からの漏水を防いでいます。組立カラム1本の総重量は10kg程度であり、海砂を充てんした後でも人力で取り扱うことができます。組立カラムの最下部には、海水は通過させますが油は吸着するガラスフィルターを装着しました。ガラスフィルターを通じて海水が流出入することにより、中空カラム内で砂浜海岸における干満を再現するとともに、試験期間中に油がカラム下部から周辺海域に漏出するのを防ぐ構造です。組立カラム上部には、側方部のみに開口部を設けた。カラム内への雨水の侵入を防ぐとともに、カラム内に常に新鮮な空気が供給される構造です。
間隙水採取用カラムは、最上部カラム以外の、海砂を充てんする5個の個別カラムの中央部にサンプリングポート(サンプリング孔)を設け、シリコンチューブを接続し、このチューブを通じて個別カラム内の間隙水をシリンジで採取できる構造です。
試験条件の設定
1基のヒューム管には、同条件で作成した海砂採取用カラム6本と間隙水採取用カラム1本を設置し、6基のヒューム管ごとに異なる試験条件を設定しました(【図4】)。試験区-1は、原油及び緩効性肥料を添加しないコントロール条件とし、試験区-2は、原油のみ添加する条件としました。試験区-3~試験区-6は、緩効性肥料の添加量や添加方法について異なる条件を設定し、肥料の適切な供給方法を把握しました。
試験に使用する原油は、中東から日本に多く輸入されているアラビアンライト原油を210℃で蒸留し揮発性成分を除去したもの(ウェザリング処理原油)を用いました。中空カラム上部からの投入油量は200gとしました。これは、汚染源(タンカーが座礁した地点等)の近傍の海面を漂う厚さ3.3cmの油層が砂浜海岸に漂着した場合を想定しています。この原油投入量については、予備試験で、カラム中位まで油が浸透しカラム外部への油流出がないことを確認しています。
試験に使用する緩効性肥料は、Scott社のオスモコート(14-14-14)を使用しました。オスモコート(14-14-14)の肥効期間は、農地使用時で約3か月間です。
試験区-6については、緩効性肥料を海砂表面に散布する方法と緩効性肥料を海砂中に混合する方法を比較するため、中空カラムの組立時に海砂中に緩効性肥料を混合埋設する施肥方法としました。肥料添加量は、試験区-5と同一に設定し、比較検討できるようにしました。
カラムに充てんする海砂は、パリ島沿岸に堆積している天然海砂を清浄な海水を用いてふるい処理して得られる0.25~4mmの範囲内の調整砂を使用しました(【図5】(a))。
カラムへの海砂の充てんは、個別カラムごとに行い、海水を海砂に散水しながらハンマーによる周囲の打撃と突き固めにより十分締め固めた。個別カラム間の接続にはパッキンを挿入し、塩ビ製のボルトとナットを用いて固定しました(【図5】(b)、(c))。
試験区-1の4か月後に回収する個々の海砂採取用カラムの中央部には、小型自動温度測定装置(MDS-MKV/T、アレック電子社製)を計5箇所設置し、海砂中の温度を自動計測しました。
中空カラムを設置するヒューム管底層の透水性が低い、又は中空カラム最下部のガラスフィルターが目詰まりする場合には、長期的に中空カラム内で干満を再現できなくなる危険性があります。そこで、中空カラムを設置するヒューム管内に堆積している微細な底泥(シルト分)及び有機物を海水と混合することで巻き上げ、泥水をヒューム管外へ除去しました(【図5】カラムの作成 (d))。管内の底泥を除去後、前記の調整海砂を約5cmの高さになるようにヒューム管内部に投入して、底部が水平になるようにならしました(【図5】カラムの作成 (e))。
組立後の中空カラムは、干潮時にゴムボートを用いてヒューム管まで輸送しました。ヒューム管には同条件の7本の中空カラム(海砂採取用カラム6本、間隙水採取用カラム1本)を1本ずつ設置しました(【図5】カラムの作成 (f)、(g))。
試験の開始
カラム内の海砂上面より海水面が約2cm高くなった2008年8月18日の満潮時(23時頃)に、試験区-1を除くすべての中空カラム内に前記の原油を200gずつ投入しました。(【図6】原油と緩行性肥料の添加 (a))。原油投入から10時間後に、海砂上面に投入した原油が砂中に浸透していることを確認後、試験区-3、試験区-4、試験区-5を対象として緩効性肥料をカラム内の海砂上面に添加しました。試験開始から2か月後の海砂採取用カラムの回収時に同様の方法で追肥しました。添加直後のカラム内の海砂表面の状況を【図6】原油と緩行性肥料の添加 (b)に示します。
緩効性肥料を添加した日を試験開始日(0日目)としました。
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