酵素糖化の現状
セルロースを分解(糖化)するためには酵素、セルラーゼが必要です。セルラーゼは、たとえば胃腸薬にも含まれていますし、ジーンズの風合いを出すためにも使われますので、国内でも市販されています。ですが、それらは前処理リグノセルロースを糖化するには能力として不十分で、また高価です。一方、海外のメーカーは十年以上前からリグノセルロース系バイオマス糖化のための酵素製剤を開発してきました。数年前までは酵素製剤生産菌株の酵素生産性の向上と、米国の主なターゲットであるコーンストーバーの糖化のための改良が米国エネルギー省の後押しで進められてきました。最近では、アジア圏各国のバイオマス利用に対する意識の高まりを受けて、酵素系のさらなる改良が進められていますが、我々が研究や開発のために入手することは非常に困難となっています。
これら主要な酵素メーカーの製品を含めて、ほとんどのバイオマス糖化酵素製剤はトリコデルマ(Trichoderma reesei)に分類されるカビの酵素系を用いています。実際には、ほとんどがひとつの株、Trichoderma reesei QM6aに由来する株を生産に用いているようです。
セルラーゼとは1種類の酵素を指すわけではなく、異なる分解様式を有する複数の酵素の総称です。大きく分けてセロビオヒドロラーゼ、エンドグルカナーゼ、ベーターグルコシダーゼなどが含まれ、それらが協同しなければ結晶性セルロースの糖化は困難です。またこれらに加えて、前処理で残されたヘミセルロースを分解する酵素群もある程度必要です。
バイオマスの分解は微生物の体の外、すなわち菌体外で起こりますので、その分解(糖化)に関わる酵素は通常は菌体外に分泌されます。改良が重ねられた工業用生産株は、1Lの培養上清あたりで20gものタンパク質を菌体外に分泌すると言われており、そのタンパク質のほとんどすべてがバイオマス糖化に必要なセルラーゼとヘミセルラーゼです。この非常に高い菌体外タンパク質生産性は、生産コストに直接影響します。カビにはこのように非常に高い菌体外タンパク質生産能を有する株がみられますが、このタンパク質生産性のレベルは現在のところバクテリアでは到達困難な状況です。そのため、有用なバイオマス糖化酵素の探索源をカビに求めることが一般的です。また、キノコには腐朽菌を始めとしたリグノセルロース分解に適応した種が多く存在しますが、それらの酵素や酵素系の研究はまだまだこれからの段階です。
バイオマス糖化酵素系は微生物には広く存在します。調べたところでは、おおざっぱに見てカビ、キノコの3割以上は酵素系を分泌するようでした。カビやキノコには十万を超える種があるとされています。バイオマス糖化酵素系の多様性や有用性に対する見極めはまだ途についたばかりとも言えます。近年バイオマス糖化に関連する菌株を中心に、多くのカビやキノコのゲノム情報の整備が進められていますが、それをきっかけに世界中でカビやキノコの研究が新しいフェーズを迎える可能性があるのです。
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