糖化酵素と微生物
腐朽菌
森林では古木や倒木、落ちた枝などは徐々に徐々に朽ちていきます。これは微生物の営みによるものです。木材の主成分であるセルロースは結晶化しているため難分解性です。また、木材にはヘミセルロースやリグニンなども含まれ、さらに分解が難しくなっています。木材を完全に分解するための一連の酵素をもつ生物は限られますが、菌類はその能力をもつ代表的な微生物です。
木材を腐らせる菌類(木材腐朽菌)は伝統的に、リグニンの分解の仕方にもとづいて白色腐朽菌、褐色腐朽菌、軟腐朽菌の3群に区別されます。
白色腐朽菌
白色腐朽菌は材中のセルロース、ヘミセルロース、リグニンをすべて分解することができます。腐朽が進むにつれて木材が類白色になることが、白色腐朽の名前の由来です。白色腐朽菌でよく研究されている種にPhanerochaete chrysosporiumがあります。その他にもカワラタケ(Trametes versicolor)、食用菌として知られるヒラタケ(Pleurotus ostreatus)やシイタケ(Lentinula edodes)など多くのきのこの仲間(担子菌類)が白色腐朽菌です。
(上 ツリガネタケ、下 ヒラタケ)
褐色腐朽菌
褐色腐朽菌は材中のセルロースとヘミセルロースは分解しますが、リグニンの分解は限定的です。そのため、木材の腐朽が進むにつれて残ったリグニンの色味(褐色)が着いていきます。これが褐色腐朽の名前の由来です。褐色腐朽菌類はすべてきのこの仲間で、有名なものにはオオウズラタケ(Fomitopsis palustris)やキカイガラタケ(Gloeophyllum sepiarium)があります。家屋の木材を腐らせて問題となるナミダタケ(Serpula lacrymans)も褐色腐朽菌です。
褐色腐朽菌
(ツガサルノコシカケ)
木材腐朽性きのこによるアルコール生産
白色腐朽や褐色腐朽を引き起こすきのこの中には、木材中のセルロースやリグノセルロースをグルコースなどの単純な糖に分解するだけでなく、アルコール発酵を行う種類もあることがわかってきました。白色腐朽菌のシロアミタケ(Trametes suaveolens)やアラゲカワラタケ(T. hirsuta)には特に顕著なエタノール生産能が報告されています。また、ヘミセルロースの主成分の1つキシロースも、カワラタケによってエタノールに変換されます。これらの腐朽菌の研究が進めば、酵母を用いること無く木質バイオマスから効率的にエタノールを生産することができるようになるかもしれません。
カワラタケ
軟腐朽菌
軟腐朽菌は材中のセルロースとヘミセルロースを分解するほか、植物の細胞壁のリグニンに富む細胞間層を分解することにより木材を軟らかくします。十分な養分があり、湿潤な環境を一般に好むといわれています。多くの軟腐朽菌は子のう菌類か子のう菌類の無性生殖世代(不完全菌類)で、トリコデルマ属(Trichoderma)やカエトミウム属(Caetomium)が含まれます。酵素が市販されており、研究も進んでいるTrichoderma ressei が代表的な種です。
軟腐朽菌
(カエトミウム属の1種)
植物病原菌
植物に寄生して病気を引き起こす植物病原菌類は、植物への侵入時にセルロース分解酵素を分泌することが知られています。また、これらの酵素は植物組織の腐敗症状誘起にも関与するとされています。
腐朽性のきのこの中にも、ナラタケ属(Armillaria)やマツノネクチタケ属(Heterobasidion)など、生きた樹木に感染して病気を起こす種類が多くあります。
セルロース分解酵素はこれらの植物病原菌の感染にとっても重要な役割を果たしているようです。
引き起こすナラタケ
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