バイオテクノロジー

NBRCニュース 第6号

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                   NBRCニュース No. 6(2010.12.1)
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 NBRCニュース第6号をお届けします。10/13-14日に開催しました「アジア微
生物資源の保全と持続可能な利用のための国際シンポジウム」に、多くの皆様
のご参加をいただき、まことにありがとうございました。シンポジウムと、そ
の前後に開催した「微生物資源の保存と持続可能な利用のためのアジア・コン
ソーシアム(ACM)」第7回会合の内容は、以下のホームページで紹介しており
ますので、是非ご覧下さい(https://www.nite.go.jp/nbrc/global/acm/index.html)。

(等幅フォントでご覧ください)

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 内容
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 1.新たにご利用可能となった微生物株(2010年9月28日~11月26日)
 2.微生物あれこれ(3)
    ニキビの原因菌:アクネ菌
 3.微生物の培養法(3)
    Gluconacetobacter xylinus
 4.アジアの微生物 (3)
    インドネシア、メガダイバーシティの国
 5.NITEが解析した微生物ゲノム (3)
    Kitasatospora setae NBRC 14216 (= KM-6054)
 6.NITEバイオテクノロジー本部の出展のお知らせ
 7.年末年始のNBRC微生物株・DNAリソースの発送休止について

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 1.新たにご利用可能となった微生物株(2010年9月28日~11月26日)
【詳細】https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html
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 糸状菌 69株、バクテリア 203株、アーキア 8株、微生物ゲノムDNA 1種類を
新たに公開しました。今回の新規公開株には、タイ王国の発酵食品由来の乳酸
菌 173株が含まれています。

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 2.微生物あれこれ(3)
    ニキビの原因菌:アクネ菌             (浜田盛之)
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 ニキビの原因菌として有名なアクネ菌。この名前をご存じの方も多いと思い
ます。
 アクネ菌(プロピオニバクテリウム・アクネス)は、ニキビの原因菌として
知られており、悪者というイメージが強いと思います。しかし、実際は特別な
病原菌ではなく、ニキビのあるなしにかかわらず、どなたの皮膚にも存在する
常在菌です。本来アクネ菌は肌を弱酸性に保ち、他の病原菌の侵入や増殖を抑
える働きをする、人間にとって有益な菌といえます。アクネ菌は、皮脂を好ん
で栄養源とし、酸素を嫌う性質をもっているため、基本的に毛穴の中にある脂
腺の奥に生息しています。人間にとって良い働きをするアクネ菌ですが、汚れ
や皮脂で毛穴が詰まってしまうと、アクネ菌にとって快適な環境、即ち栄養と
なる皮脂が豊富で酸素の無い環境となり、過剰に増殖してしまいます。その過
程で種々の炎症誘発物質を産生し、毛包周囲に炎症を引き起こします。このよ
うなメカニズムでニキビの炎症を引き起こすため、アクネ菌はニキビの原因菌
とされています。
 アクネ菌が属するPropionibacterium属は、その名前の由来となっているプ
ロピオン酸を生産するという特徴があります。Propionibacterium属には、ビ
タミンB12の生産菌として知られているPropionibacterium freudenreichii 
subsp. freudenreichii NBRC 12424など産業上有用な菌も存在します。アクネ
菌は分類学的には抗生物質生産で有名な放線菌の仲間ですが、形態的には菌糸
状にはならない桿菌です。このような放線菌の仲間としては、結核菌(Myco-
bacterium tuberculosis)やグルタミン酸生産菌(Corynebacterium 
glutamicum)などが有名です。
 先に述べたように、アクネ菌は酸素を嫌う通性嫌気性菌ですので、嫌気ジャ
ーを用いれば簡単に培養できます。また、そのような設備が無くてもオートク
レーブ等で脱気した液体培地に接種して、静置培養することによっても簡単に
増殖させることができ、概ね2~3日の培養期間で旺盛な増殖がみられます。
NBRCでは以前より多くのお問い合わせをいただいておりましたアクネ菌の基準
株(Propionibacterium acnes NBRC 107605)を入手し、公開いたしました。
NBRCでは今回紹介したアクネ菌以外にも、たくさんの放線菌を保有しておりま
す。これらの菌株を多くの皆様にご利用いただければ幸いです。

アクネ菌

静置培養の様子
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 3.微生物の培養法(3)
    Gluconacetobacter xylinus             (村松由貴)
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 酢酸菌の1種であるGluconacetobacter xylinusは、バクテリアセルロースを
生産する代表的な菌として知られています。デザートなどに使われるナタデコ
コの主成分もバクテリアセルロースで、ココナッツミルクをこの菌で発酵させ
て作られます。また、バクテリアセルロースは、植物セルロースとは異なる性
質を持つことがわかってきており、分離膜や医療材料、製紙などへの応用が期
待されています。NBRCでは基準株を含む10株のG. xylinusを公開しています。
それらのうち、NBRC 3288は、生分解性ポリマーやバイオセンサー用酵素など
の生物工学的マテリアルの生産遺伝子群の解析を行うために、全ゲノム解析が
進行中です。
 一般的に酢酸菌の培養は難しくはありませんが、G. xylinusの基準株NBRC 
15237などの株は、培地にエタノールを加えないとうまく生育しないこともあ
り、復元培養方法についてのお問い合わせをよくいただいております。ここで
は、G. xylinusの復元培養方法について紹介させていただきます。

フィルター滅菌器


菌膜
Gluconacetobacter xylinus NBRC 16682
350培地、30℃、3日間培養
◆ 培地の調製

 用いるNBRC 350培地は、エタノールとそれ以
外の成分に分けて調製します。まずはエタノー
ル以外の成分で培地を調製し、オートクレーブ
滅菌します。冷却した後(寒天培地では、固ま
らない50℃程度まで)、フィルター滅菌をした
エタノールを無菌的に添加し、試験管やシャー
レに分注します。先に培地を試験管に分注して
オートクレーブし、その後にエタノールを加え
てもかまいません。エタノールは、熱い培地に
加えると蒸発しますので、必ず培地を冷まして
から加えてください。【NBRC 350培地の組成】

◆ 復元培養の手順

(1) アンプルを開封します。
(2) 約0.2 mlのNBRC 350液体培地をアンプルに
  加えて細胞を懸濁します。懸濁液の1~2滴
  を平板培地に、残り全量をNBRC 350液体培
  地(5 ml)に接種します。復元時は液体培
  地しか生育しないことが多いので、必ず液
  体培地にも接種してください。指定温度に
  て静置培養します(アンプル開封直後に振
  とう培養をすると生育が見られないことが
  あります)。
(3) 平板培地に生育がみられなくても、液体培
  地の液面には、生育が早い株では2~3日、
  遅い株では10~15日ほどで、膜状に菌が生
  育してきます。このとき、液体培地そのも
  のはほとんど濁りません。
(4) 液体培地上面に生育した菌膜を平板や斜面
  培地に塗りつけます。培養期間が長くなる
  と、菌膜が厚くなり、塗布しにくくなりま
  す。接種した培地には、2~3日で生育しま
  す。液体培養する時は、この寒天培地に培
  養した菌を液体培地に接種して振とう培養
  します。
(5) 凍結保存法は、NBRCニュース創刊号をご参
  考ください。
【以下、2012年10月追記】
Gluconacetobacter xylinus NBRC 15237の指定培地に、培地番号1245を追加
しました(2012年8月)。他機関や文献等で使用されている培地組成を参考にし
て条件検討したところ、これまで指定していた350培地よりも良い生育がみられ
たためです。
今後、他のGluconacetobacter xylinus 菌株についても検討する予定です。

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 4.アジアの微生物 (3)
    インドネシア、メガダイバーシティの国
      (プスピタ・リスディヤンティ:インドネシア科学院、乙黒美彩)
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 インドネシアは熱帯に多くの島々(大小約18,000以上の島)を擁し、国土の
面積は世界の陸地の約1.3%に達します。熱帯雨林、火山、広大な海などの様々
な生態系があり、その生物多様性は世界第2位とされています。メガダイバー
シティ国家の1つです。微生物にとっても、ユニークな生息地であり多様性に
富んでいるといわれていますが、これまでインドネシアでは多くの微生物種が
未発見のままでした。

スラウェジ島南部のプチャ(Pucak)周辺

川辺の土の採取
 インドネシア科学院(LIPI)とNITEは6年間(2003年4月~2009年3月)の共
同研究プロジェクトで、菌類および放線菌の保全と持続可能な利用のため、イ
ンドネシアから菌類や放線菌を分離・保存し、これら微生物のインベントリを
作成しました。スマトラ島やカリマンタン(ボルネオ)島のジャングル、ロン
ボク島のサバンナ、ティモール島の乾燥地帯など6つの島13カ所におよぶ多様
な環境から、土壌などの分離源を採取しました。分離した微生物株は、LIPIと
NITEにそれぞれ保存されています。

 菌類の分離は、主に土壌や落葉のサンプルから17の分離方法を用いて行い、
2,516株を採取しました。分離株は形態学的観察及びLSU rDNAのD1/D2領域の塩
基配列に基づいた系統解析により、206属に同定されました。子嚢菌178属、担
子菌12属と接合菌16属に属し、多くの新属新種が含まれていることが推定され
ています。主要な属は、Penicillium属、Aspergillus属およびTrichoderma属
でした。
 酵母の分離には、花、花粉、土壌、落葉、着生土壌、昆虫の巣などのサンプ
ルを用いました。合計515株を収集し、 LSU rDNAのD1/D2領域およびITS領域の
配列による系統解析を行いました。その結果58種の酵母が認められました。主
要な属はCryptococcus属、Candida属およびRhodosporidium属でしたが、分離
株の約40%が新属もしくは新種と考えられました。
 放線菌は、土壌や落葉サンプルから6つの方法を用いて分離し、合計3,194株
を収集しました。16S rRNA遺伝子配列の系統解析結果から27科、少なくとも
68属が発見されました。分離株の約20%は新属新種であると推定されています。
主要な放線菌は、Streptomycetaceae科、Micromonosporaceae科とStrepto-
sporangiaceae科に含まれました。

 このようなインドネシアの微生物はスクリーニング用として日本の企業や大
学の方々に安価にご利用いただけます。ぜひインドネシアの多様な微生物を研
究開発にお役立てください。

 プロジェクトにはインドネシアの5つの研究機関・大学からのべ90名の研究
者が参加し、現地にて毎年行われたワークショップや人材交流によって若い研
究者への技術移転と人材育成が実施されてきました。そして今後LIPIとNITEと
の共同研究は2011年3月から「眠れる森のび(美・微)生物プロジェクト」の
第一弾として再スタートします。私たちは近い将来、インドネシアでも微生物
の保存機関が設立され、微生物を提供できる体制が整備されることを期待して
います。そしてこの新しいプロジェクトがインドネシアの産業や研究開発に大
きく貢献することを確信しています。

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 5.NITEが解析した微生物ゲノム (3)
    Kitasatospora setae NBRC 14216 (= KM-6054)
 【詳細】http://www.bio.nite.go.jp/dogan/top      (市川夏子)
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 11月1日にKitasatospora setae NBRC 14216株のゲノム情報をデータベース
DOGANより公開しましたので、本菌株の特徴についてご紹介します。

 Kitasatospora属は、Streptomyces属放線菌と形態及び生活環が似ています
が、細胞壁成分や形態分化の様式において区別されています。属名の
Kitasatosporaは言うまでもなく北里柴三郎博士にちなんでおり、種小名の
setaeは世田谷の地名に由来します。その後、この属には20を越える種が発表
されていますが、約半数は国内で分離されたものであり、我が国にとっては大
変なじみの深い「国産」の放線菌群と言えるでしょう。Kitasatospora setae 
NBRC 14216はsetamycin(bafilomycin B1)の生産菌として分離され、この属
が初めて発見されたときの菌株です。


Kitasatospora setae(北里大学高橋教授撮影)

 
ゲノム解析の結果、Kitasatospora setae NBRC 14216株は、127 kbの長い末
端配列を伴った8.7 Mbの線状染色体を持つことが確認できました。ゲノムの形
状や末端配列の存在はStreptomyces属放線菌のゲノムとよく似ていました。放
線菌の特徴ともいえる二次代謝産物の合成遺伝子群も多数存在することが分か
りました。ゲノム配列を利用して、この菌株の生合成遺伝子クラスターなどが
実験的にも確認されつつあり、生理活性物質の探索源としてのKitasatospora
属の重要性を再確認する結果となりました。さらに、形態分化に関連する遺伝
子や細胞壁合成に関与する遺伝子の比較解析により、Streptomyces属と
Kitasatospora属の進化的な関係についての考察が行われました。今後もゲノ
ム情報を元にさらに解析が進み、新規抗生物質の発見やStreptomyces属との系
統的関係の解明が進められることが期待されます。

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 6.NITEバイオテクノロジー本部の出展のお知らせ
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 NITEバイオテクノロジー本部は、以下の展示会に出展いたします。皆様のお
越しを心よりお待ちいたしております。

第33回日本分子生物学会年会・第83回日本生化学会大会 合同大会(BMB2010)
特別企画NBRP実物つきパネル展示
 日程:2010年12月7日(火)~10日(金)
 場所:神戸コンベンションセンター(ポートライナー市民広場駅すぐ)
    http://www.aeplan.co.jp/bmb2010/index.html

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 7.年末年始のNBRC微生物株・DNAリソースの発送休止について
 
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 NBRCでは下記の年末年始期間中、郵便事情により遅延が見込まれるため、微
生物株・DNAリソースの発送を一時休止させていただきます。

 発送休止期間:平成22年12月21日(火)~平成23年1月5日(水)

 上記発送休止期間中にお急ぎでご利用になりたい場合は、電話(0438-20-
5763)にてご相談ください。また、発送以外のご依頼・お問合せ等につきまし
ては、通常通り対応させていただいております。ご利用の皆様には、ご不便を
お掛けいたしますが、何卒ご了承いただきますようお願い申し上げます。
 なお、弊機構の年末年始休業は12月29日~1月3日です。

【生物遺伝資源の提供・寄託について】 
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/index.html

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 編集後記
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 最後までお読みいただきましてありがとうございます。今年の夏は異常とも
言える暑さでしたが、今となってはその暑さも懐かしく感じるくらい寒くなっ
てまいりました。寒くなると鍋がおいしく感じます。この頃、鍋の時には「か
んずり」を使用しております。かんずりは、唐辛子と麹を使用した調味料です
が、このようなところにも微生物が役立っているのですね(NK)。

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・偶数月の1日(休日の場合はその翌日)に発行します。第7号は2月1日に発
 行予定です。

編集・発行
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