CMC letter No.17(第17号)-[特集・2]事業者によるリスクコミュニケーションに関する取組
リスクコミュニケーションへの取組状況の調査
化学物質管理センター リスク管理課
はじめに
化学物質の管理を適正に行うためには、その化学物質に関係する全ての人(事業者、行政、地域住民など)とリスクに関する情報を共有することが重要です。そのために行なわれる対話がリスクコミュニケーションです。リスクコミュニケーションを行うことで、関係者間で信頼関係が醸成され、適切な化学物質管理が行われることになります。
当センターでは、平成16年度以降、事業者が新たにリスクコミュニケーションを実施する、あるいはより充実したコミュニケーションを検討する際の具体的な参考となるよう、事業者を対象にその取組状況の把握を調査等によって継続しています。平成24年度においても、最新の情報を詳細に収集し、広く提供することを目的とし「リスクコミュニケーション国内事例調査」を実施し、その結果をとりまとめてHPをリニューアルしました。
1.リスクコミュニケーション事例調査
事業者のリスクコミュニケーション活動について、最新の活動実態を把握するため、実施目的、参加者の構成、事前準備の内容、プログラム、情報提供の内容、質疑応答の内容、効果的な実施に向けた取組事例などに関するアンケート調査票を480件の事業者に配布し、192件の回答を得ました。また、調査票への回答結果を踏まえ、特徴的な取組を実施している事業者に対して、より詳細に各取組の目的や経緯、実施内容、効果などを収集しました。
アンケート調査で得られた回答のうち、平成22年度から23年度にリスクコミュニケーションを実施した事業者は、142事業者(74%)でした。以下に、その実施内容の傾向についてご紹介します。
【参加者の構成】
図1に、リスクコミュニケーション活動の参加者の構成を単独実施と合同実施に分けた集計結果を示します。(単独又は合同実施の判別が可能な回答を集計対象としています。以後、図2、3も同様です。)
合同実施では、事業者と近隣住民の他、「市民団体」、「近隣の事業者」、「自治体職員」など幅広いステークホルダーの参加を得て開催している傾向があります。組織的に活動することにより、幅広い対象との交流が可能になっています。また、地元の大学や高校生の参加を積極的に促している事例もあります。
一方、単独実施では、対象となる近隣住民が明確であることから、限られた範囲を対象として開催されているようです。合同実施では規模が大きくなりがちですが、単独実施では近隣住民とより近い距離で活動を行うことができます。
図1 参加者の構成
【開催プログラムの構成】
図2に、リスクコミュニケーション活動の開催プログラムの構成を単独実施と合同実施に分けた集計結果を示します。単独実施では、「会社・事業所紹介」、「事業所の環境活動報告」、「工場見学」、「質疑応答・意見交換会」が一般的なプログラムとなっている傾向にあります。プログラムを自由に設定できるので、各事業者の環境への取組を近隣住民にアピールすることができます。
一方、合同実施では時間も限られている関係で、「会社・事業所紹介」、「事業所の環境活動報告」、「工場見学」など事業所ごとの活動内容の説明時間が少ない傾向にあります。しかし、「社外協力者の講演」、「専門家の講評」の割合が単独実施より高いことから、外部からの情報提供を受けることで、幅広い視点で情報提供しつつ、公開性や中立性を担保していると考えられます。
合同実施の場合は規模と共に準備も大きな負担になりますが、組織的に取り組むことにより、活動のノウハウが蓄積され、また、必要な準備を輪番制にすることにより、個別の事業者の負担が軽減される事例もあります。
図2 開催プログラムの構成
【情報提供内容の構成】
図3に、リスクコミュニケーション活動の情報提供内容の構成を単独実施と合同実施に分けた集計結果を示します。単独実施では、「化学物質の管理に関する法律の遵守状況」、「排水処理」、「廃棄物対策」について説明している割合が合同実施より高くなっています。これは、近隣住民にとっては、対象がどの事業者か明確であるとともに、事業者にとっても影響を及ぼす範囲を限定して設定できることから、事業者からより具体的に、近隣住民への影響を軽減する対策について重点的に説明されていると考えられます。その他、騒音、臭気、緑化、マナーについての説明も、近隣住民との距離が近い単独実施の割合が高くなっています。
一方、近隣住民の関心を反映する質問項目については、「地震、災害時の対応」が63%(両実施方法の合計)と最も高く、東日本大震災の影響で、近隣住民の関心が高くなっている可能性があります。次いで「温暖化対策や省エネ対策」37%、「臭気」34%、「排水処理」31%。「化学物質のリスクに関する情報」31%と安全や生活環境への関心が高い傾向にあります。
図3 情報提供内容の構成
【化学物質のリスクコミュニケーションについて】
化学物質のリスクコミュニケーションは、「化学物質」そのものが一般市民にはなじみの少ないものであることから、その情報提供の方法や、受け手の関心度や認識などに課題があると考えられています。そこで本調査では、化学物質に関する情報提供という観点において、詳細な設問を設けました。
「化学物質のリスクに関する情報」の説明を行った事業者は、平成22年度から23年度にリスクコミュニケーションを実施した事業者(142件)のうち、50件(35%)です。その中で、通常業務上の情報等を活用した、「取扱い物質の毒性について」が22件、「モニタリング測定結果について」が17件と多く、「化学物質のリスク評価」が5件、「シュミレーション濃度計算」が2件と少なくなっています。また、参加者から「化学物質のリスクに関する情報」への質問があった事業所は20件(14%)であり、どちらも全体としての割合は少ないですが、過去と比較すると、化学物質の排出量やリスクに関する情報の提供が進み、また参加者の関心も高まってきているように思われます。
2.HPの主な変更点・追加点
より使いやすい情報をご提供するため、事例紹介のホームページにおいて、次の点を変更・追加しています。
- 事例の検索の際、都道府県に加え、「業種別」「立地環境別(工場団地型、住宅と混合型)」「実施単位別(単独実施、合同実施)」「取扱物質(トルエン、キシレンなど)」からも事例を検索できるように追加しました。
- 各事例の内容について、より詳細な項目について情報を整理し、各事業所の平成22年度把握PRTR届出データ(排出・移動量上位3物質)を追加しました。
- リスクコミュニケーションを開催する場合の手順や解説のページを新設しました。資料集には、実際に使用された説明資料や想定問答集なども掲載しています(一部加工している場合があります)。
3.まとめ
本情報により、今後リスクコミュニケーションを始めたいと考えている事業者又は新しい試みを検討している事業者の方々に対して、より活用しやすい情報を提供していくとともに、当センターでは今後とも、事業者における化学物質管理のために様々な情報を発信していく予定です。
※本稿でご紹介した内容は、一般社団法人環境情報科学センターへの委託による平成24年度リスクコミュニケーションの事例調査に関する委託事業報告書に基づくものです。
リスクコミュニケーション国内事例URL:
http://www.safe.nite.go.jp/management/risk/kokunaijirei.html
リスクコミュニケーション国内事例画面(地域別)
※日本国内でのリスクコミュニケーション事例を、地域別に掲載しています。各都道府県を選択すると、行われたイベントなどが表示されます。
お問い合わせ
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