化学物質管理

CMC letter No.13(第13号)- [特集]化学物質審査規制法におけるリスク評価

排出量推計に用いる化学物質の排出係数一覧表(案)の公表

化学物質管理センター リスク評価課

1.はじめに

前号で紹介しました化審法における優先評価化学物質のリスク評価で用いる排出量推計のための排出係数一覧表の設定について更に詳細に述べます。本文で説明する「化学物質の排出係数一覧表(案)」については、経済産業省によって意見募集等がされ、それらの結果を踏まえた一覧表が公表されました1)。また、この排出係数一覧表はスクリーニング評価用の排出係数の導出にも用いられています。

2.化審法の届出情報を利用する排出量推計の必要性

優先評価化学物質のリスク評価を行う際に、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(以下、「化管法」という。)における排出量の情報(以下、「PRTR情報」という。)や環境モニタリング情報が利用できる場合がありますが、これらの情報は、優先評価化学物質全体の中では一部の物質に限られることが予測されます。

すべての優先評価化学物質についてリスク評価を行うためには、製造数量等の届出制度に基づく情報を利用することが基本になると考えられます。その際には届出された数量等に“排出係数”を乗じることで排出量を推計することになります。

したがって、化審法の届出情報を利用する排出量推計では、排出係数を設定することが重要となります。

3.排出係数一覧表

排出係数を整理し一覧にしたものを排出係数一覧表と呼んでいます。排出係数一覧表の構成は「用途分類」「ライフサイクルステージ」「排出先環境媒体」「物理化学的性状」に基づいて作成されており、これらの構成要素が決定されることによって1つの排出係数が選択されるように作成しました。

用途分類は、化審法での製造数量等の届出制度の中で製造・輸入業者から当該化学物質の用途情報も併せて届け出ていただくものです2)。用途分類表は、用途分類と詳細用途分類という二つの階層で整理し、用途分類の中に詳細用途分類という細分が設けられています3)

ライフサイクルステージについては、化審法の製造数量等の届出制度で得られる優先評価化学物質のライフサイクルステージに関する情報が「製造」と「出荷先」のみであるため、EUにおける化学物質のライフサイクルを参考にし、ライフサイクルステージの設定については次のような仮定を設けました。化学物質のライフサイクルにおける各ライフサイクルステージは、「出荷先」を「調合段階」、「工業的使用段階」、「家庭用・業務用の使用段階」、「長期使用製品の使用段階」の4つのライフサイクルステージに分けることで、「製造」を含めた5つのライフサイクルステージを考慮するようにしました。また、化審法の届出情報には、EUにおける「Waste treatment(廃棄処理)」の情報は含まれていないので考慮していません。

これらの設定によって、用途分類・詳細用途分類が製造・輸入事業者によって届出された場合、自動的にその用途分類・詳細用途分類での優先評価化学物質のたどるライフサイクルが決定されることになります。

優先評価化学物質のライフサイクルステージのイメージ
図表1 優先評価化学物質のライフサイクルステージのイメージ

環境媒体については、排出源から最初の排出先として大気と水域を設定しています。

物理化学的性状は、化学物質固有の情報として得られるものであり、排出先の環境媒体に対応する物理化学的性状として大気には蒸気圧、水域には水溶解度をそれぞれ設定しています。

4.排出係数の設定

排出係数の設定の全体フローを図表2に示します。排出係数設定の際に土台となったのは、フロー図の一番左にあるEU-TGDのA-tableです。これは、REACH以前のEUの法体系(Regulation 793/93, Directive 92/32/EC)において、EU加盟国自身がリスク評価をする際に用いられてきたEUの排出係数一覧表です。

最初の作業としては、化審法では制度上、EU A-tableで使用しているすべての構成要素に関する情報は得られないため、より少ない構成要素で排出係数が選定されるようにするために制度上で得られる範囲の情報(ライフサイクルステージ、用途、物理化学的性状)で排出係数を決定できるように簡易化し、排出量推計が可能となるように工夫しました(図表2の左から2番目のブロック)。

2番目の作業として、PRTR情報等から算出した排出係数によって、EUの排出係数を日本の現状に沿うように補正する作業を行いました。また、PRTR情報が得られなかった場合についても、産業界等からのヒアリング調査によって排出係数が算出可能な場合には考慮しました。

更に、わが国の実態を表すPRTR情報や産業界からの提供情報等から算出した排出係数の情報が無い用途分類や詳細用途分類については、「下限値の設定」と「データのない分類への準用」という考え方を用いて、EU-TGD A-table の値のままである部分を極力減らすことを試みました。長期使用製品の使用段階に用いる排出係数については、国ごとの管理の差が生じにくいと考え、OECDのEmission Scenario Doccumentで用いられている排出係数などを参考にしました(図表2の左から3番目のブロック)。

前述しました産業界等からのヒアリング調査等による排出係数の補正の流れは図表3のようになります。

ここで言う「下限値の設定」とは、現行のPRTR制度において、対象化学物質の年間の大気又は水域への排出量が0.05kg未満の場合は、排出量0.0kg/年として届け出ることになっているため、PRTR情報や業界団体からの提供データの中には排出係数が0(ゼロ)との記載がされていたとしても、その排出量は極めて小さな値であって0(ゼロ)ということではないと考えました。そして、PRTR対象物質の一般的な取扱量が概ね10トン未満であるとの解析結果から、大気及び水域の排出係数にそれぞれ下限値として、10-5オーダーの値を用いることにしました。

また、「データの無い分類への準用」については、調合段階においては、調合メーカーにおける化学物質の取り扱い方(操作)は類似性が大きく、いくつかのグループに分けられるとの考えからすべての用途分類を3グループの調合の仕方に分け、データが無い用途分類については、同一グループ内で操作の類似性の大きい用途分類の排出係数を準用することとしました。工業的使用段階では調合段階に比べて、用途分類ごとの操作の類似性が小さいので、用途分類内の詳細用途分類間での準用はおこなったものの用途分類間の排出係数の準用は慎重に行いました。

なお、この排出係数一覧表は、今後審議会を経て公式なものになる予定です。

排出係数設定の全体フロー
図表2 排出係数設定の全体フロー

産業界等からのヒアリング調査等による排出係数の補正の流れ
図表3 産業界等からのヒアリング調査等による排出係数の補正の流れ

  1. 1)化審法のリスク評価に用いる排出係数一覧表(案)の公表について
    http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/haishutsu-keisu.html
  2. 2)一般化学物質及び優先評価化学物質の製造数量等の届出事前準備資料
    http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/CSCL-setsumei-H22-12-jizen-12a.pdf
  3. 3)化審法の用途分類について
    http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/CSCL-setsumei-H22-12-youto.pdf

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化学物質審査規制法におけるスクリーニング評価

化学物質管理センター リスク評価課

1.化審法におけるスクリーニング評価の位置づけ

我が国における化学物質管理政策の柱の1つである「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(以下、「化審法」という。)」は、環境汚染を通じた人の健康と動植物の生息又は生育への被害を防止するため、製造等に関し必要な規制を行う制度です。この化審法では、WSSD(World Summit on Sustainable Development:持続可能な開発に関する世界首脳会議)の国際合意の達成や化学物質管理制度における国際整合性を確保するために、その一部を改正する法律が平成21年5月20日に公布1)されています。改正のポイントの1つは、既存化学物質を含むすべての化学物質について、国がリスク評価を行い、そのリスクの程度に応じて必要な規制措置を講ずるという包括的管理制度の導入です。

また、国が行うリスク管理では、以下の図に示すように「スクリーニング評価」、「リスク評価(一次)」、「リスク評価(二次)」の3段階で評価が実施されます。

化審法におけるスクリーニング評価及びリスク評価の位置づけ
図表1 化審法におけるスクリーニング評価及びリスク評価の位置づけ

当センターでは、経済産業省からの委託事業として化審法における化学物質管理体系において、効率的にスクリーニング評価及びリスク評価を行うことができる評価スキームの検討を行ってきました2)。ここでは、平成22年9月及び10月に3省(経済産業省、厚生労働省、環境省)の合同審議会3)で審議が行われ、パブリックコメントを経て公開されたスクリーニング評価手法4)について解説します。(スクリーニング評価手法の詳細に関しては参考資料5)をご覧下さい。なお、ここで使用している図表は、公開されている資料を基に一部NITEで変更を加えています。)

2.スクリーニング評価手法の概要

スクリーニング評価とは、一般化学物質等が化審法第2条第5項の優先評価化学物質に相当するかどうかを判定することとされています。この評価では暴露に関する情報として、一般化学物質等に対して届出が義務化されている製造数量等の届出情報を、また有害性に関する情報として、化審法上で届出又は報告された情報や国が実施した既存点検情報等を用いることとされています。

※化審法第2条第5項
この法律において「優先評価化学物質」とは、その化学物質に関して得られている知見からみて、当該化学物質が第三項各号のいずれにも該当しないことが明らかであると認められず、かつ、その知見及びその製造、輸入等の状況からみて、当該化学物質が環境において相当程度残留しているか、又はその状況に至る見込みがあると認められる化学物質であって、当該化学物質による環境の汚染により人の健康に係る被害又は生活環境動植物の生息若しくは生育に係る被害を生ずるおそれがないと認められないものであるため、その性状に関する情報を収集し、及びその使用等の状況を把握することにより、そのおそれがあるものであるかどうかについての評価を優先的に行う必要があると認められる化学物質として厚生労働大臣、経済産業大臣及び環境大臣が指定するものをいう。

(1)スクリーニング評価の対象

スクリーニング評価の対象物質は、製造数量等の届出情報において、製造・輸入数量の全国合計値が10トン超の一般化学物質等(届出不要のものを除く。公示前の新規化学物質を含む。平成22年度に行うスクリーニング評価においては、第二種監視化学物質又は第三種監視化学物質)とされています。

この、製造・輸入数量の全国合計値が10トンというすそ切り値は、化審法第5条(製造予定数量が一定の数量以下である場合における審査の特例等)の考え方に基づいており、第二種特定化学物質に該当する蓋然性が極めて低い一般化学物質等はあらかじめ評価の対象から除外するという考え方があるためです。

(2)スクリーニング評価を行う化学物質の単位

スクリーニング評価は、可能な範囲で「化学物質」ごと(CAS番号単位)で行うことを原則とするとされています。ただし、化学物質の同定に関する情報、有害性情報及び取扱いに係る情報に基づき、必要に応じて、官報公示番号単位、有害性情報を有する化学物質のグループ単位(例:異性体混合物や解離性等の化学物質)で評価を行う可能性があります。なお、第二種監視化学物質及び第三種監視化学物質については、原則としてその指定の単位で評価を行うことを想定しています。

(3)スクリーニング評価手法

スクリーニング評価では、人の健康を損なう等の有害性の指標と、環境中での残留という暴露の指標を統合したリスクの観点から評価することとしており、人健康と生態でそれぞれ独立にスクリーニング評価を行うことになります。

  1. ①有害性の指標の設定(図表2、図表3)
    有害性の指標は、化審法において着目している長期毒性に係る項目を対象としており、スクリーニング評価における有害性の指標の分類を「有害性クラス」と呼び、人健康では化審法の第二種監視化学物質の判定基準とGHSの分類基準等を、生態では化審法の第三種監視化学物質の判定基準とGHSの分類基準等を基に、それぞれ以下の表の通り設定しています。
    なお、有害性情報が得られていない化学物質の場合には、人健康では、一般毒性と変異原性においてクラス2(生殖発生毒性と発がん性に関してはクラスの付与を行わない)を、生態ではクラス1を付与するとされています。

    図表2 人健康における有害性クラス
    人健康における有害性クラス

    図表3 生態における有害性クラス
    生態における有害性クラス

  2. ②暴露の指標の設定(図表4)
    暴露の指標は全国合計排出量を利用することし、スクリーニング評価における暴露の指標の分類を「暴露クラス」と呼び、人健康については大気と水域への全国合計排出量に分解性を加味した量、生態については水域への全国合計排出量に分解性を加味した量を用いて以下の表の通り設定しています。
    この全国合計排出量は、製造数量等の届出情報から得られる製造数量と用途分類別出荷数量にスクリーニング評価用排出係数を乗じることで求めます。なお、化審法において「良分解性」と判定されている化学物質に対しては、分解性を加味するために水域での分解と下水処理場等での分解を考慮するとされています。

    図表4 人健康及び生態における暴露クラス
    人健康及び生態における暴露クラス

  3. ③優先度マトリックスの設定(図表5、図表6)
    リスクが懸念されないとは認められず優先的にリスク評価を行う必要がある物質を判断するため、有害性と暴露の指標の組合せを利用し、「高」、「中」及び「低」の優先度を付与する優先度マトリックスを設定しています。優先度マトリックスにおいて、優先度が「高」に該当する物質を「優先評価化学物質」と判定します。なお、優先度が「中」及び「低」に該当する一般化学物質等に関しては、必要に応じて優先度の高いものから順に優先評価化学物質相当と判定すべきかどうか検討するとされています。

    図表5 人健康における優先度マトリックス
    人健康における優先度マトリックス

    図表6 生態における優先度マトリックス
    生態における優先度マトリックス

3.今後の予定

当センターでは、2.で紹介したスクリーニング評価手法を用いて、第二種監視化学物質に関しては人健康について、第三種監視化学物質に関しては生態について評価を行い、優先評価化学物質候補6)を選定たところですが、来年度は、国が指定した優先評価化学物質のリスク評価と一般化学物質等のスクリーニング評価を行う予定です。

  1. 1)経済産業省 改正化審法について
    http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/h21kaisei.html
  2. 2)製品評価技術基盤機構 化審法におけるリスク評価
    http://www.safe.nite.go.jp/risk/kasinn.html
  3. 3)平成22年度 化学物質審議会安全対策部会評価手法検討小委員会(第2回)‐参考資料3
    http://www.meti.go.jp/committee/kagakubusshitsu/anzentaisaku/kentou/002_haifu.html
  4. 4)「スクリーニング評価の基本的な考え方(案)」及び「化審法におけるスク リーニング評価手法について(案)」に対する意見募集の結果について
    http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595210030&Mode=2
  5. 5)「スクリーニング評価の基本的な考え方(案)」及び「化審法におけるスク リーニング評価手法について(案)」に対する意見の募集について -参考 資料 スクリーニング手法の詳細-
    http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595210030&Mode=0
  6. 6)平成22年度第11回薬事・食品衛生審議会薬事分科会化学物質安全対策部会化学物質調査会化学物質審議会第102回審査部会第108回中央環境審議会環境保健部会化学物質審査小委員会-議事要旨 議事概要-(別添2)優先評価化学物質相当と判定された物質一覧-
    http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004475/102_giji.html

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