化学物質管理

CMC letter No.6(第6号) - [特集]NITE化学物質管理センター成果発表会2007

PRTR届出データの5年間の動向について

NITE化学物質管理センター成果発表会2007

[化学物質管理センター リスク管理課]
中島 薫

PRTRデータの処理の流れとNITEの役割について概説し、この5年間の届出件数や届出排出量及び移動量の動向を全国、全業種別、地域別、業種別という切り口で解説しました。

NITEはPRTR制度の実施機関として様々な業務を行っていますが、PRTRデータの活用や分析も試みており、その一環として、PRTR届出データの制度開始から5年間(平成13~17年度)の動向を分析しました。

届出件数の動向

届出事業所数は、15年度の対象化学物質の取扱量要件の引き下げ(5トン以上→1トン以上)に伴い、20%弱増加しましたが、それ以降は約4万件とほぼ横ばいになっています。届出方法別では、電子届出が大幅に増加し、17年度は全体の4割弱を占めました。

届出排出量・移動量の5年間の動向

排出量は、15年度に微増したものの、毎年概ね減少しており、17年度は26万トンでした(図1)。特に、大気への排出が排出量合計に占める割合が高いものの、5年間で20%と大きく減少しました。一方、移動量は、15年度に増加した後はほぼ横ばいとなっており、17年度は23万トンでした(図1)。いずれの年度も廃棄物としての移動がほとんどを占めています。また、1事業所当たりの平均排出量及び平均移動量はともに5年間減少し続けています。

15年度における排出量の微増と移動量の増加の一因としては、対象化学物質の取扱量要件の引き下げに伴い、新たに届出する事業所や新たな物質を届出する事業所が増えたことが考えられます。取扱量要件の変更に伴う増加分(推計値)を13年度、14年度に上乗せすると、排出量は順調に減少している様子が、また、移動量は5年間でほぼ横ばいに推移している様子が伺えました。

図1 排出量及び移動量の推移

届出排出量・移動量の増減上位物質

図2 排出量の増減各上位物質 排出量が5年間で大きく減少したのは、トルエン、キシレン、塩化メチレン等で、いずれも大気への排出量の多い物質です(図2)。これらの物質は、VOC(揮発性有機化合物)排出抑制に係る自主行動計画の対象となっており、そうした取組の結果、排出削減が進んでいると考えられます。

一方、エチルベンゼンは、排出量が最も大きく増加しました。塗料の溶剤等に使用される混合キシレンにはエチルベンゼンが数十%含まれますが、その排出量は従来キシレンとして把握されがちでした。しかし、NITEにおける届出データチェックや業界団体での指導等により、正しく把握されるようになり、その結果、エチルベンゼンが増加した可能性が考えられます。

また、ふっ化水素及びその水溶性塩は廃棄物としての移動量が大きく減少しています(1,800トン減)。届出対象外である非水溶性のふっ化カルシウムの量を誤って届出する事例が多くありましたが、NITEでの届出データチェックの結果、正しい値に修正され、減少してきた可能性が考えられます。

届出排出量の増減上位業種

5年間の減少量の多い業種は、化学工業、出版・印刷・同関連産業、パルプ・紙・紙加工品製造業等ですが、これらの減少の中心はVOCであり、業界団体におけるVOC排出抑制の取組の成果と考えられます。一方、増加している業種は、非鉄金属製造業、一般機械器具製造業等です。非鉄金属製造業は事業所内の埋立処分の占める割合が高く、年度間の変動が大きくなっています。また、一般機械器具製造業は生産量の増加に伴い増加している可能性が考えられます。

今回の分析の結果は、「平成17年度PRTR届出データの過年度との比較」報告書として、近日中にホームページから公表する予定です。

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PRTR対象150物質の初期リスク評価について

NITE化学物質管理センター成果発表会2007

[化学物質管理センター リスク評価課]
宮坂 宜孝

化学物質総合評価管理プログラム「化学物質リスク評価及びリスク評価手法の開発」の概要とその成果について解説しました。

「化学物質リスク評価及びリスク評価手法の開発」プロジェクト(NEDO受託事業)は、平成13年度から6年間にわたり実施してきました。このプロジェクトにおいて、NITEでは化学物質排出把握管理促進法の第一種指定化学物質(PRTR制度対象物質)を中心に、ヒトへの健康リスクが高い、または、環境中生物への影響が大きいと考えられる物質(150物質)のリスク評価を行うために、暴露・リスク評価手法の開発を行い、これらの物質の暴露情報等リスク評価に必要な基礎データを収集・整備すると共に、有害性情報と合わせて化学物質ごとの初期リスク評価を行いました。

この初期リスク評価の目的は、現時点で詳細な調査、解析、評価等を行う必要性の有無を明らかにすること(スクリーニング)と不足している情報を明確化することです。

このプロジェクトの研究成果物である初期リスク評価書、排出経路データシート、PRTR対象物質総括管理表、大気中の濃度マップ等はホームページ上から公開しています。また、これまでに5報の論文を学会誌へ投稿しました。

初期リスク評価の特徴

本初期リスク評価の特徴は、(1)全ての物質に対し統一的な手法を用いること、(2)現時点で入手可能な情報を利用していること、(3)PRTRデータを用いたモデル推定濃度を活用していること、(4)暴露の余裕度である暴露マージン(MOE)と有害性情報の不確実さの程度を表す不確実係数積(UFs)を比較し評価していること等が挙げられます。特に、PRTRデータを用いたモデル推定濃度を活用しリスク評価を行うことで、モニタリング情報が入手できていない物質(大気中濃度で81物質、河川水中濃度で51物質)に対しても評価が可能となり、より多くの物質について暴露・リスク評価を実施することができました。また、評価結果をまとめ、詳細リスク評価候補物質の特徴を整理しました。

初期リスク評価結果~まとめ~

初期リスク評価結果~詳細な調査、解析、評価等が必要~

リスク評価書等の活用

「化学物質管理のためのリスク評価書活用の手引き~初期リスク評価書の正しい理解のために~」は、企業や自治体等における化学物質リスク管理に本プロジェクト成果物を活用していただきたいという気持ちから取りまとめを行ったものです。初期リスク評価と詳細リスク評価の目的や方法の違い、また、評価指針・マニュアルに記載されていない初期リスク評価の注意点等を記載しています。また、詳細リスク評価候補物質については、その原因、特徴を明らかにし、必要な行動の提案等を示しました。

おわりに

このように、初期リスク評価を6年間行ってきたことで、NITEには「暴露評価・リスク評価を支える技術」が蓄積されたと考えています。今後はリスク評価に基づく化学物質管理を行う環境を整備するために、更なるプロジェクト成果の普及・啓発を行っていくと同時に、蓄積した技術を活用して、化管法PRTR対象化学物質以外の化学物質へのリスク評価等を行い、安全・安心の確保を目指した更なる展開を図っていきます。

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構造活性相関の行政利用を目指すNITEの取り組みについて

NITE化学物質管理センター成果発表会2007

[化学物質管理センター 安全審査課]
横田 英樹

構造活性相関の行政利用に関する国際動向やその行政利用に関するNITEの取り組みについて解説しました。

NITEでは、平成13年から構造活性相関手法(以下、(Q)SARという。)に関する検討を行ってまいりました。ここでは、(Q)SARの行政利用に関するNITEにおけるこれまでの取り組みについて御紹介します。

(Q)SARとは、化学物質の構造上の特徴と生物学的活性(例えば分解性、生物蓄積性、各種毒性エンドポイントなど)との相関関係をいいます。1960年代にHanschとFujitaが論文にまとめたものが初めといわれています。

構造活性相関行政利用に関するNITEの取り組み

NITEが行ってきた主な活動は以下のとおりです。

予測手法に関する研究

NEDOプロジェクトでは、既存化学物質の安全性点検を加速化するため、分解性・蓄積性に関する(Q)SARの開発が行われました。

NITEは、新規化学物質の生分解性・生物濃縮性の実測試験結果と構造活性相関モデルの予測結果とを比較検討し、各モデルの予測精度・適用範囲・欠点などを明らかにしています。これらの検討結果はモデルの改良やその使用方法の検討の際に役立っています。また、山口大学と共同で、活性化エネルギーを計算し、これを指標に用いて加水分解性を予測する手法等の開発を行いました。

行政利用に関する取り組み

平成16年に、NITE内に外部有識者からなる「構造活性相関委員会」を設置し、我が国の化学物質管理行政において、構造活性相関をどのように活用すべきかなどについて検討を実施しています。

具体的には、(Q)SARを、未点検既存化学物質の分解度・濃縮度試験実施の優先順位付けに活用するため、以下を実施しました。

  1. (1)生分解性・生物濃縮性を評価するため、これに用いる構造活性相関モデルの検証・選定
  2. (2)構造活性相関を用いた分解性・蓄積性予測プロトコルの作成
  3. (3)未点検既存化学物質の分解性・蓄積性予測と試験実施の優先度・方針案の作成

(1)で選定したモデルにより未点検既存化学物質を評価、実測試験優先度を検討した結果、難分解性・高濃縮性の疑いのある物質(59物質)を選定し、これらのうち、有識者の専門的な知見を踏まえ個別物質評価書を作成しました。

また、(Q)SARの予測結果を化学物質審議会に提出しています。平成18年度には、分解性192物質、蓄積性161物質を報告しています。各モデルとも的中率はほぼ同じです。

行政利用に関する取り組み

まとめ

OECD (Q)SARプログラムへの参加・協力

バリデーション原則やガイダンスドキュメントの作成、(Q)SARアプリケーションツールボックス開発への協力等を行っています。

おわりに

効果的・効率的な化学物質管理を促進することは今後ますます重要であり、期待されているところです。また、化学物質管理もハザードベースからリスクベースへと一層促進されるものと考えられます。このような背景から(Q)SAR利用促進はますます重要であり、NITEとしても(Q)SARの適用範囲の明確化や予測結果の妥当性評価のためのカテゴリーアプローチの併用など様々な検討を行い、(Q)SARの行政利用の促進に貢献していきたいと考えています。

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リスクコミュニケーション国内事例調査結果について

NITE化学物質管理センター成果発表会2007

[化学物質管理センター 情報業務課]
藤原 亜矢子

リスクコミュニケーションの現状把握と今後のあり方の検討を目的とし、各社の環境報告書に基づいて行った調査結果を報告しました。

平成18年度に実施した調査の報告を行いました。この調査は、リスクコミュニケーションの実態把握と今後のあり方の検討、事業者への支援としての事例紹介を目的とし、2002(平成14)年度から2006(平成18)年度の間に600の企業が発行した環境報告書1,809冊を対象として行いました。

調査は、環境報告書記載事項から、事業者と地域住民等の皆様との対話において、環境リスクに関する話題を取り上げた「リスクコミュニケーション」と、環境リスクに関する話題が含まれない「通常のコミュニケーション」の実施状況を分類、整理したものです。

調査の結果

調査の結果、ほとんどの事業者(92%)が「通常のコミュニケーション」を実施しているのに対し、「リスクコミュニケーション」の実施率は31%と大きな差がありました。

2002年度から2006年度において、環境報告書への「リスクコミュニケーション」に関する取組記載率は、年々増加しています(図1)。また、それらの記述から、説明会、工場見学会、お祭りなど様々な形式が実施されていること、参加人数の規模は、10人台が最も多く、少人数の会議形式が事業者に多く採用されていること、事業者だけでなく、行政、ファシリテータ、インタプリタなど、第3者の協力において、開催された事例もあることがわかりました。

さらに、地域(都道府県)別、業種別のリスクコミュニケーション実施状況から、自治体のモデル事業や講習会等の支援、日本レスポンシブル・ケア協議会(JRCC)の取組などが、リスクコミュニケーション促進に効果が高いことがわかりました。

また、PRTR制度に基づく平成17年度排出量とリスクコミュニケーション実施事例数の比較を行い、排出量が多い地域ほどリスクコミュニケーションの実施事例数が多いこと(図2)、業種によって、取り組みへの温度差があることが明らかとなり、これらの比較が地域や業種の特性に応じた支援の優先度付けの指標となることを示しました。

ヒアリング調査からは、直接得られた意見等から、行政、ファシリテータ、インタプリタなどの協力者の役割や、平素から継続してコミュニケーションを行うことの重要性を示しました。

図1 年度別実施状況

図2 PRTR届出排出量との比較

調査のまとめ

PRTR排出量が多い地域で、リスクコミュニケーションの事例が多いことから、排出量の公開がリスクコミュニケーションのきっかけになっている可能性が示され、化管法施行の効果が現れていることが伺われました。

また、通常のコミュニケーションが活発に行われていることから、これに環境に関する情報開示や対話の要素を加えることによる、リスクコミュニケーションへの展開が期待されます。

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ホームページで提供している情報とその活用について

NITE化学物質管理センター成果発表会2007

[化学物質管理センター 計画課]
竹田 宜人

化学物質管理センターがホームページで発信している情報の種類と現在の活用状況、化学物質管理への活用について解説しました。

NITEが発表している化学物質関係情報の種類と現在の活用状況、及びNITEのホームページは化学物質管理でどのように役立つのでしょうか?

NITEのホームページで発信している情報は、法規性情報、有害性情報、暴露情報、リスク評価情報、リスクコミュニケーションなど化学物質管理に関する情報と物理化学性状等の情報です。これらの情報は、暴露評価、有害性評価、リスク評価、リスク管理の手順に沿って、整理されていますので、企業や自治体が実際にリスク評価を行うことを考えた時に、活用できるものと考えています。

PRしたい機能のひとつに、リスク評価体験ツールがあります。ホームページ上で使えるリスク評価の体験機能で、スクリーニング評価で使用され、初期リスク評価書に掲載されている情報がデフォルトとしてリスク評価計算に使用できるようになっています。

2 NITEのウェブサイトは化学物質管理にどのようように役立つのか?

1 ウェブサイトで発信している情報の種類と現在の活用状況

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NITE化学物質管理センター成果発表会2007の成果
~アンケート結果の概要~

当日、参加者の皆様に、成果発表会の内容等についてアンケートを実施したところ216人から回答がありました。

口頭発表の内容については、いずれのテーマも、約65%が「参考になった」との回答でしたが、「ホームページで提供している情報とその活用」については、「参考になった」が約90%であり、情報の系統的な整理と提供が必要であることが伺われました(図1)。

ポスター発表の内容としては、11テーマのうち、化管法非対象事業者である従業員数21人以下の企業の化学物質管理の現状を調査した「化学物質管理の現状について」への関心が高く、企業関係者の参加者が多かったため、他社の状況を知りたい、とのニーズがあったのではないか、と考えています(図2)。

このような皆様からのご意見を、今後の業務の参考にしていきたいと思います。

図1 口頭発表の評価

図2 ポスター発表の評価

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