化学物質管理

CMC letter No.4(第4号) - [特集・2]企業や自治体などの取り組み

連載第3回

リスクコミュニケーションは、化学物質に関するリスク情報の共有だけではなく、地域との対話を通じた企業への信頼関係の向上など、さまざまな効果が期待されています。

しかし、その必要性は理解できるが実施方法がわからない、問題を抱えていないのに実施する意義が感じられないなど、さまざまな理由で実施に踏み切れないことも多いようです。

その中で、日東紡は、40年にわたって、地元の皆様とモニター委員会を運営するなどして信頼関係を構築しており、地域と密着した日本型とも言えるリスクコミュニケーションを継続しています。

今回は、福島県の取り組みとともにその事例を紹介します。

日東紡

私たち日東紡福島工場は、グラスファイバーを製造する工場です。周囲は住宅地に囲まれているため、操業の継続には「地域との共生」が不可欠です。とりわけ環境保全は重要課題となっています。

工場の環境対策は、毎月開催する環境保全委員会とISO14001の運用を核として、「省エネルギー促進」、「産業廃棄物削減」、「化学物質削減と適正な管理」、「コンプライアンス」を中心に取り組んでいます。また、周辺地域とのリスクコミュニケーションも重要課題であり、年2回実施している「モニター委員会」を活動の中心に位置づけています。

(日東紡福島工場)

モニター委員会

モニター委員会は、周辺地域の代表者(環境モニター)40名程度をお招きして、工場の環境測定データや環境保全の取り組み状況の報告と当工場の環境関連施設の見学も実施しています。また、地域の方々からは、ご意見や情報をお受けして相互理解を深めています。

このモニター委員会は40年前から継続して実施しており、他社の方から長続きしている理由を尋ねられることがあります。

地域の方々の関心や理解の高さも要因ですが、工場では「地域住民の立場で考えよう」を基本として、説明資料や配付資料は誰もが「わかりやすい」内容で作成していること、そして工場の実績データの開示だけでなく、例えば、アスベスト問題など、その時々で話題になった環境に関する事柄等をわかりやすい資料を作成して説明するなど、常に工夫をしていることも理由のひとつと考えています。キーワードである「わかりやすい」のひとつとして、当工場で独自に実施し地域へ報告している環境測定方法「LTP法」があります。

LTP測定法

排ガスに含まれる有害物質(化学物質)濃度は排出口で測定することは可能ですが、周辺地域での実際の濃度は薄すぎて一般的な測定法では検出できません。そこで1ヵ月間反応・蓄積させて、極微量な化学物質の量を測定する方法が当工場独自で実施しているLTP法です。この測定器を周辺地域7ヵ所へ設置し、そのデータを開示することで理解と安心を得ています。

環境施設見学会

中学生の環境体験学習の様子 地域の方々へもうひとつ心掛けていることがあります。それは工場の環境保全施設や活動状況を、直接見て感じて頂くことです。その一環として、近隣中学校の環境体験学習などを積極的に受け入れています。また、ステークホルダー以外の他企業や他県の環境団体などへの環境保全活動の紹介を実施しています。

これらの活動の積み重ねが地域の方々の信頼を得ることにつながり、「モニター委員会」を長年にわたり継続することができたと考えています。さらに、この「モニター委員会」は当社グループ内でも活動が評価され、他事業所にも広がりを見せています。

最後に工場における化学物質の排出量削減状況は年5%削減目標(3年で15%削減)に対して、平成17年度は平成14年度比較で福島工場、福島第二工場合わせて50%以上の削減を達成し、目標をはるかに上回る成果を上げています。

日東紡福島工場は今後とも「地域との共生」を重点課題とし、環境に配慮した生産活動を続け、地域とともに発展する企業を目指してまいります。

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福島県

福島県では、化学物質リスクコミュニケーション(以下「リスクコミュニケーション」という。)に関する事業について、PRTR法が本格的に施行され、事業者から排出量等の届出データが蓄積されつつあったことから、これらのデータを積極的に活用するとともに、事業者~行政~住民の三者が協働して化学物質によるリスク低減を進めるため、平成16年度から取り組みを始めました。

(福島県大気環境グループ)

福島県における化学物質リスクコミュニケーションへの取り組みについて

1.これまで実施した事業について

当県では、これまで、事業者を対象としたセミナーや意見交換会を実施してきました。

セミナーでは、講義形式により多くの事業者にリスクコミュニケーションについての理解を深めてもらいました。さらに、リスクコミュニケーションの実施に当たって、疑問点や不安な点を解消するため、一会場8事業所程度の少人数による意見交換会も開催しました。

また、事業者を対象としたアンケート調査により事業者の取り組み状況の把握やホームページの開設など事業者への支援を行っております。ホームページには、アンケート調査の結果や事業の実施状況についても掲載していますので、ぜひ、ご覧ください。

http://www.pref.fukushima.jp/kankyou/taiki/risucomi_top.html

2.リスクコミュニケーションの実施に当たっての当県の考え方について

  1. (1)実施方法について

    事業所の業態や周辺の状況、地域に対しての活動状況などについては、事業所によってそれぞれ異なります。リスクコミュニケーションの実施に当たっては、それぞれの事業所に合った方法により実施して欲しいと考えており、自治会等との定期会合や工場見学会、夏祭りなど、できることから始め、徐々にステップアップするのがよいものと考えています(下図参照)。

    環境に関する説明は、地域住民との信頼関係を構築するため、化学物質対策だけでなくて、騒音、振動、悪臭の各対策や防災などについても行うことが効果的であると考えています。

    化学物質の適正管理・安全と安心の確保

  2. (2)環境報告書の作成について

    当県のホームページには、環境報告書の作成事例についても掲載しています。環境報告書を基に地域住民は、事業者が環境対策についてどのように取り組んでいるかを知ることができます。環境報告書を作成し、化学物質等に関する情報を積極的に発信することは、地域住民の信頼を得ていくことに大いに役立つと考えられます。

  3. (3)世論調査の結果について

    当県では、県政の課題等について県民の意識やニーズを調査し、具体的な政策形成等の基礎的な資料とするため、県政世論調査を行っており、平成18年度は「化学物質について」調査しました。この調査で「近くの工場で化学物質の使用状況等を地域住民に対して情報提供する説明会が開催されるとすれば、参加したいと思いますか。」という問いに対して、約7割の方が「参加したい」という回答でした。このようなことからも、事業者にはリスクコミュニケーションを積極的に実施して欲しいと考えています。

3.今後の進め方及びnite化学物質管理センターへの期待

平成18年度の事業者を対象に実施したアンケート調査によると、「他社の実施事例を知りたい」という意見が多く寄せられていることや世論調査で多くの県民が地域の説明会に出席したいという意向があることから、できるだけ多くの事例を収集し、ホームページに掲載することにより、紹介していきたいと考えています。

また、niteでも全国の事例を調査し、ホームページで紹介していますので、今後も事例を収集し、多くの事例を紹介して欲しいと考えています。

お問い合わせ

独立行政法人製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター
TEL:03-3481-1977  FAX:03-3481-2900
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