化学物質管理

CMC letter No.15(第15号)- [特集・2]アジア諸国の化学物質管理の現状とNITEの取組

関心高まるアジア共通のデータベース整備と人材育成

化学物質管理センター 情報業務課

はじめに

NITE化学物質管理センターの第三期中期目標では、化学物質の安全性等の情報について、国内外におけるリスク評価結果等を収集、整理し、国民、事業者等に対する情報提供の強化を行うとともに、国際的な情報基盤の整備に対応することとされています。

2011度の計画としては、国内及びアジアを中心とした海外の化学物質管理に関する情報の調査等を行う他、アジアの化学物質情報基盤構築を支援するとともに、OECDのe-ChemPortalとの連携など国際情報基盤整備に対応することとしています。

世界的には、2002年に開催された持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルクサミット、WSSD)において、「透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価手順と科学的根拠に基づくリスク管理手順を用いて、化学物質が、人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産されることを2020年までに達成することを目指す。」ことが合意されました。(WSSD2020年目標)

この目標を達成するため、EUでは2007年にREACHが施行され、我が国においては改正化審法が2009年5月に成立、2011年4月に施行されました。また、アジア各国においても、化学物質管理の取り組みが進められています。

例えば、インドネシアでは、化学物質一般に対する政府法令が2001年に制定されていますが、物質選定の基準は、ハザードベースです。韓国では、日本の毒劇法、化審法、PRTR制度、消防法の意味合いを含む総合的な法律である「有害化学物質管理法」が1990年に制定され、その後の改正を経て、有害性とリスクが規制物質選定の基準とされています。中国では、「新規化学物質環境管理弁法」(通称「中国版REACH」)が2003年に制定(2009年に改正)され、新規物質を対象として行政によるリスク評価を行う制度が構築されました。

しかしながら、現状では、制度、執行体制の状況、化学物質管理の手法等は、アジア各国間で異なる場合があり、国際的な化学物質管理の推進のためには、これらの制度の調和や共通の情報基盤の整備が望まれます。

そこで、我が国での経験をもとに、アジア各国における化学物質管理の向上を図るため、2010年の「日ASEANサミット」において「Asian Sustainable Chemical Safety Plan」が我が国より提案され、2011年より取り組みが進められています。この取り組みは経済産業省の主導のもと、当センター及び日本化学工業協会等が協力して進めています。

こうした背景を踏まえ、当センターでは、2011年度は、ERIA(東アジア・ASEAN経済研究センター)研究プロジェクト、人材育成等の事業に職員を派遣すると共に、化学物質管理に係る協力関係を強化するため、関係国を訪問いたしました。

ERIA ワーキンググループの活動

ERIAは、東アジア経済統合推進を目的として、2008年に設立された共通課題の分析や政策の立案及び提言を行う研究機関で、本部はインドネシアのジャカルタにあります。

ERIAは、アジアの国々がWSSD 2020年目標を達成するための最適な化学物質管理のアプローチを検討するため、化学物質管理に関する研究プロジェクト作業部会(以下、「ERIAワーキンググループ」とします。)を設置し、No data, No market型(例:EUの化学物質管理制度であるREACH規則)及び優先評価型(例:我が国の化学物質管理制度である化学物質審査規制法)の経済的な影響等に関する研究が2010年度から進められ、2011年度においては、2010年度の研究において重要性が指摘された化学物質の各国の規制情報や有害性情報を共有するための情報基盤(データベース)について検討が行われました。

当センターは、日本の化学物質管理に関するデータベース(化学物質総合情報提供システム(CHRIP))を運用管理している機関として、2011年度からERIAワーキンググループに参加しています。

2011年9月にインドネシアのジャカルタで開催された第1回会合では、各国から自国の化学物質管理制度に関するプレゼンテーションが行われたほか、当センターからはCHRIPの紹介を行いました。さらに、2012年1月にタイのバンコクで開催された第2回会合では、アセアン共通の化学物質データベース(以下、「アセアンデータベース」とします。)の構築やこの管理組織に関する議論が活発に行われました。

ERIAワーキンググループにおいて、アセアンデータベースには、アジア各国の規制情報やGHS分類結果、リスク評価のための有害性情報などの収載が提言されています。また、我が国事業者のアジア進出においても、アジア各国の規制情報へのニーズの高まりは大きく、こうした情報が集約されたアセアンデータベースの構築は、多大な利便性をもたらすと考えられます。

環境保護部化学品登記中心(中国)との会合

前記のとおり、アジアの化学物質基盤構築の支援において、ERIAワーキンググループでは、アセアンデータベース構築の必要性が議論されるなど、データベース整備とアジア各国間の連携が重要視されています。

当センターでは、こうした動きに先行する形で、アジア地域における規制情報のCHRIPへの収載を検討しています。

こうした状況を踏まえ、アジア地域における主要国の一つである中国における規制情報のCHRIPへの収載を検討すると共に、日中間の化学物質管理に係るデータベースの運営等に関する協力関係を築くため、2011年12月、当センター職員が中国の環境保護部化学品登記中心(CRC:Chemical Registration Center)を訪問しました。

今回のCRC訪問では、CRCが保有する中国における既存化学物質リスト(IECSC:Inventory of Existing Chemical Substances in China)のデータベース及びCRCの組織等についての説明を受けました。

CRCは、新規化学物質環境管理弁法の実務を担当する環境保護部の一機関であり、IECSCを管理しています。IECSCによって既存化学物質を確認する手段としては、無料のインターネット版及び有料のPC版が存在し、インターネット版では、既存化学物質リストへの収載有無が名称又はCAS番号で確認出来るのに対し、PC版では、構造式情報も一部収載されており、名称による部分一致検索、ブランド名の情報も閲覧可能です。

今回のCRC訪問により、今後のデータベースに関する情報交換を開始することができ、当センターが計画しているCHRIPへのアジア地域における化学物質の規制情報収載という目標に向けた第1歩を踏み出すことができました。

人材育成(研修への講師派遣等)

アジア各国は、急速な工業化を背景に化学物質管理に対するニーズの高まりと、WSSD 2020年目標に対応するための化学物質管理制度の整備が急がれています。リスク評価手法は、化学物質管理制度の中核となる概念として、重要な情報と認識されており、各国でもその情報収集と国内普及のため、教材の整備や人材の養成が必要とされています。

そのため、経済産業省を中心に、アジア諸国等の化学物質管理に関する各種の人材育成事業が実施されており、当センターは、こうした活動を技術的側面から支援しています。

2011年度は、JICAが主催しベトナム、インドネシア、カンボジアから6名の政府関係者が参加した研修「国際的な化学物質管理に対する国内制度の対応」、財団法人海外技術者研修協会(AOTS)が主催しアジア6か国から29名の政府・企業関係者が参加した「アジア化学物質リスク評価手法研修コース」及び財団法人海外貿易開発協会(JODC)が主催しタイ、ベトナム及びマレーシアで計6回のセミナーが行われた「化学物質リスク評価手法専門家派遣セミナー」などの事業が実施されました。

これらの研修やセミナーで、当センターは、化審法におけるリスク評価手法、リスク評価に必要なツールであり当センターが保有するCHRIP、構造活性相関((Q)SAR)の取り組み等について講演を行うとともに、ウェブ画面上の簡易な操作による「リスク評価体験ツール」の実演を通したリスク評価手法の紹介などを行いました。

これらの研修やセミナーは、受講生や関係者から高く評価されました。研修や意見交換等を通じて化学物質管理の重要性がより深く認識され、また、各国において化学物質管理を適切に進めるために必要とされる環境整備に関し、日本からの技術支援に高い期待が表明されました。

当センターは研修終了後も、各研修の参加者や関係者に継続的に情報提供を行うなど、コミュニケーションの維持を図っています。

アジア諸国は、日本にとって経済活動の重要なパートナーであり、このような活動を通じた国際貢献は、当センターの重要な業務の一つであると認識しています。


JICA研修での記念撮影


JICA研修での記念撮影

まとめ

当センターは、今後とも、国内外の化学物質管理に関係する方々にとって有用な、信頼性の高い情報を継続的に発信していくとともに、国際協力事業を技術的側面から支援する等、様々な場面を活用して、化学物質管理の普及啓発に取り組んで参ります。

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