微生物はどのように金属を腐食させるのか?
微生物が金属腐食を促進するメカニズムとしては以下のものが考えられています。
(1)嫌気性微生物による金属表面からの電子除去(陰極脱分極説)
1934年、Von Wolzogen KuhrとVon der Vlutによって、嫌気的環境下で硫酸塩還元菌が微生物腐食を引き起こす可能性が報告されました。そして、この硫酸塩還元菌による腐食は、【図1】に示された陰極脱分極反応(cathodic depolarization theory)によって起こると説明されました。しかし、最近の研究から、この説は疑問視されるようになっています。
水と接触している鉄は、"自発的"に電子を放出し、二価の鉄イオンとなって溶解します。放出された電子は、金属中を通って電位が高い部分へと移動し、水素イオンと反応して水素ガスを生成します。この反応速度は、嫌気的条件下で中性付近の溶液中では非常に遅いです。鉄が溶解する部位、すなわち電子が発生する部位を陽極(anode)と呼び、電子が水素イオンと反応する部位を陰極(cathode)と呼びます[注:電池の陽極(cathode)/陰極(anode)の呼称とは逆なので混同しないように]。陰極に電子が溜まり分極を起こすと、陽極からの電子の移動が抑えられ、陽極での鉄の溶解も抑えられます。もし硫酸還元菌が存在すれば陰極での電子の消費が促進され、陰極の脱分極が起こり、その結果、鉄の溶解が促進されるはずです。これが微生物による腐食促進のメカニズムであるという説が提唱されました(陰極脱分極説 = カソード復極説(cathodic depolarization theory))。
(2)バイオフィルムによる酸素濃淡電池の形成
水と接している金属の表面には、しばしば微生物の薄い皮膜(バイオフィルムと呼ばれている)が発達します。十分に発達したバイオフィルムでは、バイオフィルム内の菌の呼吸によって酸素はほぼ完全に消費され、金属の表面は嫌気的になります。その結果、異なる厚さのバイオフィルムに覆われた金属表面との間に酸素濃度の差が発生します。酸素濃度が高い金属表面では、酸素の還元反応(O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-)が起こり陰極となります。一方、酸素濃度が低い金属表面は陽極となって鉄のアノード溶解反応(Fe → Fe++ + 2e-)が起こります。このように金属表面に酸素の濃淡が存在すると、酸素が薄い金属表面での腐食が促進されます。
(4)微生物による酸生成
酸を生成する微生物が微生物腐食を引き起こす事例も知られています。硫黄酸化細菌は、無機硫黄化合物を酸化して得られるエネルギーを用いて生育する細菌の総称です。この中で、チオバチルス属の細菌は分子状の酸素で硫黄化合物を酸化し二酸化炭素を電子受容体として生育します。特に、チオバチルス・チオオキシダンス (Thiobacillus thiooxidans) は硫黄温泉などに生息し、硫化水素や硫黄を硫酸にまで酸化するため、生成した硫酸によって鉄腐食は促進されます。
また、微生物が生産する有機酸による腐食も考えられています。
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