バイオテクノロジー

NBRCニュース 第84号

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NBRCニュース 第84号
2023/12/1
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  1. 
  新たにご利用可能となった微生物株
微生物イメージ画像
◆NBRC株
   酵母3株、細菌114株、藻類4株が新たにご利用可能となりました。
   酵母では、滋賀県の土壌から分離された新種の油脂産生酵母3株を公開しました(NBRC 115584~115586)。細菌では、特許第6052655号に記載されている電離水素水の製造に用いる菌株NITE P-01240をNBRC 115832として、特許第5717119号に記載されている高い光学異性体純度のL-乳酸の製造に用いる菌株FERM P-21943をNBRC 116150としてそれぞれ公開しました。

【新たに提供を開始した微生物資源】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

  2.  
  微生物あれこれ(61)
     
  微生物の多様なポリアミン ~好熱性アーキアのポリアミンのお話~
     
  (福田 青郎)
   ポリアミンは複数のアミノ基を鎖長3または4の炭化水素鎖で結んだような化合物で、地球上の生物に広く分布しています。例えばヒトが有する主なポリアミンとしてプトレシン【NH2(CH2)4NH2:アミノ基で挟まれた炭化水素鎖長から[4]と表記】やスペルミジン【NH2(CH2)3NH(CH2)4NH2:[34]】、スペルミン【NH2(CH2)3NH(CH2)4NH(CH2)3NH2:[343]】が知られています(図1)。この他にも好熱性の細菌やアーキアではさらに大きな長直鎖型ポリアミン(例:サーモペンタミン:[3433])や分岐型ポリアミン(例:N4-ビスアミノプロピルスペルミジン:[3(3)(3)4])なども知られています(文献1)。いずれにしても「ポリ」と名前につくほどアミノ基は多くはないのですが、複数のアミノ基の効果で正に強く荷電しています。このため核酸やタンパク質などの負電荷をもつ生体分子と結合し、その構造の安定化などに寄与します。結果として転写・翻訳から細胞分裂など、幅広い生命現象に関連することになります。健康増進物質としても注目されているのですが、少々匂いがキツいという問題もあり、食品として商品化するには悩ましいところもある物質です。
 
ポリアミン構造
図1.ポリアミンの構造の例
   ポリアミンの生合成経路も細かい差異はあるのですが、主な経路を紹介しますと、まずアルギニンを脱炭酸、脱尿素(グアニジノ基の加水分解)することでプトレシン[4]が産生されます。またメチオニン由来のアミノプロピル基【-(CH2)3NH2】が付加されることでポリアミンは伸長していきます。「脱炭酸反応」「脱尿素反応」「アミノプロピル基付加反応」の順番は生物種によって様々ですが、最終的にプトレシン[4]にアミノプロピル基が複数結合したものがポリアミンの基本構造となります。例外的にリジンの脱炭酸反応物であるカダベリン[5]やホモスペルミジン[44]のようなポリアミンの存在も知られています。またアセチル化や水酸化されたポリアミンもあります。特にアセチル化/脱アセチル化によりポリアミンの塩基性が制御されますので、生体分子との相互作用など細胞内における役割を考える上で大変興味深い物質です。こう聞くと複雑に思えるかもしれませんが、数字で書くと「4」といくつかの「3」からなるのが基本ですので、構造としてはさほど複雑なものではありません。

   様々な生命現象に寄与するポリアミンでありますが、生物によって組成が異なることが知られています。分岐型ポリアミンは好熱性細菌や好熱性ユーリアーキオータが有していることが知られており、正に強く荷電した分岐型ポリアミンが高温環境で不安定化しがちな核酸の安定化に寄与しているのではないかと予想されています(図1)。一方でクレンアーキオータに属する好熱菌は直鎖型ポリアミンを有しています。これは必ずしも長直鎖とは限らず、分岐型ポリアミンは見出されていないという特徴があり、同じ好熱菌でも組成に大きな違いがあります。ユーリアーキオータに属する超好熱菌Thermococcus kodakarensisは分岐型ポリアミン[3(3)(3)4]をもち、培養温度が高いとこの分岐型ポリアミン[3(3)(3)4]の割合が多くなります(文献2)。Thermococcus kodakarensisの分岐型ポリアミン合成酵素遺伝子を破壊したところ、分岐型ポリアミンのような大型ポリアミンが合成されなくなり、細胞内にはスペルミジン[34]が蓄積しました。生育能について解析した結果、生育上限温度が1℃下がったことから、分岐型ポリアミン[3(3)(3)4]が高温環境での生育に寄与していると言えなくもないのですが、分岐型ポリアミンが無くてもスペルミジン[34]で代替して高温で生育可能とみることもできます。これは、クレンアーキオータが分岐型ポリアミンを有していないこと(そもそも分岐型ポリアミン合成酵素遺伝子をもちません)、また必ずしも長直鎖のポリアミンを有しているわけではないことと矛盾しません。ただし分岐型ポリアミン[3(3)(3)4]の有無により様々なmRNAやタンパク質の細胞内存在量に差が出ることも分かっているため、実際は細胞内の代謝経路等では様々な差があると思われます(文献3)。ともあれこのようなポリアミン組成は、細胞内で様々な影響を与えていると予想されますし、生物間の組成の違いは大変興味深いものです。

   以上の話は一例ですが、微生物ごとにポリアミン組成は異なりますので、微生物分類の指標に使えるのではないかという議論があります。確かに細胞内ポリアミン組成は属レベルで差異が見られることも多いですし、微生物分類を考える上で興味深い題材です(文献1)。しかもこれまでに様々な微生物のポリアミン組成に関して解析されてきたという実績もあります。しかしポリアミンの構造のバリエーション自体が少ないことや、生育環境によってポリアミンの存在量比が変化することも考えますと、分類指標とすることには難しさも感じます。ただし分類指標としてはともかく、微生物ごとになぜポリアミン組成が異なるのか、その組成の違いが生命現象にどのような影響を与えるのかという点に関しては興味が尽きませんし、今後の研究の進展が楽しみです。

【文献】
(1) 浜名康栄 (2002) 日本微生物資源学会誌 18 (1):17-43
(2) Okada et al. (2014) J. Bacteriol. 196 (10):1866-1876
(3) Fukuda et al. (2020) Amino Acids 52 (2):287-299

  3.  
  DBRP(生物資源データプラットフォーム)
     
  ~更新データのお知らせ~
■JAMSTEC株を公開(9月27日)
   国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)のデータ(株情報1325件 他)を公開しました。
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   深海の極限環境に生息する微生物は、陸上の微生物とは異なる固有の生存戦略を有し、様々なイノベーションの源泉としての活用が期待されています。今回、公開した微生物株は、日本の領海及び排他的経済水域内から採取したものであり、JAMSTECから日本国内の民間企業、大学、研究機関に広く提供されています。DBRPに登録したJAMSTEC株コレクション情報は下記URLをご参照ください。

【JAMSTEC株コレクション情報】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/dataview?dataId=COLL0000900000001

■鳥取大学のTUFC菌株(きのこ)のデータを追加(10月25日)
   DBRPから公開しているTUFC菌株(きのこ)コレクション (Tottori University Fungal Culture Collection) データに、株情報184件と文献情報9件を追加しました。追加された株の中には、これまでDBRPに登録されていなかった約70種が含まれています。

   TUFC菌株(きのこ)コレクションは、コウヤクタケ類やサルノコシカケ類、キクラゲ類などの木材腐朽性の国産野生きのこを中心として、菌根性のハラタケ類も含む日本最大級のきのこ菌株コレクションです。また、コレクションに含まれるきのこ菌株は採集日や同定者といった情報が明確に記録されているのも特徴です。今回追加された菌株のリストと、TUFC菌株(きのこ)コレクションの情報は下記URLをご参照ください。

【追加した菌株リストはこちら】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/releasedatalist?releaseId=20231025_tottori-univ
【TUFC菌株(きのこ)コレクション情報】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/dataview?dataId=COLL0000700000001

  4.  
  DBRP(生物資源データプラットフォーム)を使ってみて下さい!
   DBRP(生物資源データプラットフォーム:Data and Biological Resource Platform)は、6万株以上の微生物株とその関連情報を一元的に集約したデータベースです。DBRPでは微生物の学名や株名(番号)だけでなく、様々な観点から目的の微生物やその情報を探すことができます。今回は、菌名から菌株を探す基本的な手順の一例を紹介します。

1.括弧内のURLにアクセスします(https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/top)。

2.Topページを下へスクロールして、青塗りの「微生物株を探す」まで移動します。

3.検索窓にキーワードを入力後、「検索」ボタンをクリックします。(例)Saccharomyces cerevisiaeを探す場合:「フリーワード検索」か「項目別に探す」の右にある「学名」の検索窓に「Saccharomyces cerevisiae」と入力する。「フリーキーワード検索」に「パン酵母」と入力しても検索できます。

4.検索結果がデータIDとデータタイトルからなる表として表示されます
(例の場合、489件*が表示される)

5.結果を絞り込みたい場合は、画面上部の青線で囲まれた「絞り込み検索」を利用するか、3の「微生物を探す」に戻って検索窓にキーワードを追加し、検索し直します。

   今回は使用法の第一歩として基本的な菌株の検索方法を紹介しました。より詳しい方法は動画で紹介していますので、https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/topの左サイドメニューから「DBRP動画紹介」をクリックして下さい。

   お問い合わせやご要望などございましたら、左サイドメニューの「お問い合わせ・ご要望はこちら」や、「DBRPコンシェルジュ(期間限定)」からお願いします。
https://www.nite.go.jp/nbrc/kouhou/dbrp_concierge.html

*令和5年11月8日時点での検索結果です。
DBRPコンシェルジュバナー

  5.  
  2023年度NITE講座(バイオ基礎講座2023)のご案内
   NBRCでは、毎年NITE講座(無料セミナー)を開催しています。本年度は、期待の高まる微生物の利活用に向けて、まずは知っておきたい基礎的な知識の習得のための「バイオ基礎講座2023」を開催します。

   本講座は、NITEが保有する微生物の多様性や入手方法、皆様が保有する微生物の寄託やバックアップについての紹介に加え、微生物の保存、培養、分析に関する技術、遺伝子組換え生物の鉱工業利用に関する法令対応について解説します。また、微生物に関する情報取得を目的として、公的データベースとNITEが提供するDBRP(生物資源データプラットフォーム)の利活用の方法を紹介します。
 
NITE講座お知らせ
   講座名:バイオ基礎講座2023
               ~近年、注目を集める微生物!まずは知っておきたい微生物利用の基礎知識~
   開催日時:2023年12月15日(金)13:00~17:10(途中参加途中退出可)
   参加費:無料(受講登録が必要です)
   定員:450名(先着順で、定員になり次第受け付けを終了します)
   開催形態:オンラインセミナー(Webexウェビナー)
   プログラム: https://www.nite.go.jp/data/000151676.pdf
   参加申込み:以下のリンク先にて受講登録をお願いします。
   https://nite.webex.com/weblink/register/rff9057cd76d54badd38bf4f882f2e864
   対象者:こんな方々にオススメです。
         ・企業/大学等において微生物やその情報・技術の利用に携わっている方
         ・これから微生物の利用を考えている方
         ・微生物研究開発事業のマネジメント、安全管理、法務知財に従事する方

   詳細はバイオテクノロジーセンターのウェブページからご覧いただけます。
   https://www.nite.go.jp/nbrc/kouhou/nite_lectureship_2023.html

   皆様のご参加、お待ちしております。

  6.  
  NBRCが展示、発表等を行うイベントについて
   以下のイベントにて展示、発表等を行います。ぜひご参加ください。

第46回 日本分子生物学会年会
   日時:2023年12月6日(水)~8日(金)
   会場:神戸国際展示場(兵庫県神戸市中央区港島中町6-11-1)
   URL:https://www2.aeplan.co.jp/mbsj2023/index.html
   NITEの参加形態:講演(6日1AS-17)

第198回腐食防食シンポジウム(腐食防食学会)
   日時:2023年12月11日(月)10:00~17:20
   会場:きゅりあん(品川区立総合区民会館)大会議室(東京都品川区東大井5-18-1)
   URL:https://www.mmij.or.jp/events/18407.html
   NITEの参加形態:講演

2023年度NITE講座(バイオ基礎講座2023)
   日時:2023年12月15日(金)13:00~17:10
   会場:オンライン(Webex)
   URL:https://www.nite.go.jp/nbrc/kouhou/nite_lectureship_2023.html
   ※詳細は「5.2023年度NITE講座(バイオ基礎講座2023)のご案内」をご覧ください。

   編集後記
   ここ最近、ありがたいことに微生物分野の様々な方とお話する機会を多くいただいています。その中で、これまで自身に無かった考え方や問題意識が浮き彫りになってきました。これらの経験を通じて、日々変化していく環境や社会に対して、どのように貢献していくべきかを改めて考えていきたいところです。(RN)
微生物情報の検索は「DBRP(生物資源データプラットフォーム)」
NBRC株の検索、ご依頼は「NBRCオンラインカタログ」
微生物に関するご相談は「微生物コンシェルジュ」
微生物の有害情報の検索は「M-RINDA」
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・NBRCニュースは偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信します。次号(第85号)は2024年2月1日に配信予定です。

編集・発行
   独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター(NBRC)
   NBRCニュース編集局(nbrcnews【@】nite.go.jp)
   (メールを送信される際は@前後の【】を取ってご利用ください)

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TEL:0438-20-5763
住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 地図
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