NBRCニュース 第68号
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NBRCニュース No. 68(2021.3.31)
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NBRCニュース第68号をお届けします。今号は連載「微生物あれこれ」にて、乳酸菌
Lactobacillus属が25属に再分類された2020年の論文について解説をしております。また、
微生物の危険度分類や法規制情報をまとめた「微生物有害情報リスト」と微生物のゲノム
情報から有害性を推定するデータベース「MiFuP Safety」が相互に参照できるようになり
ましたので、その機能をご紹介します。最後までお読みいただければ幸いです。
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内容
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1.新たにご利用可能となった微生物株
2.微生物あれこれ(53)
Lactobacillus属が25属に再分類されました
3.「微生物有害情報リスト」と「MiFuP Safety」の相互参照機能の公開について
4.MALDI-TOF MS微生物同定用ライブラリーの追加提供のお知らせ
(Cladosporium属、Lactobacillus属)
5.YouTube動画公開のお知らせ
~微生物の凍結保存方法(糸状菌編)~
6.NBRC株オンライン分譲依頼サービスの開始について
7.NBRC株・DNAリソース・NBRC微生物カクテルの発送休止について
8.手数料改定のお知らせ(再掲)
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1.新たにご利用可能となった微生物株
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◆NBRC株
酵母18株、糸状菌22株、細菌18株が新たにご利用可能となりました。
酵母では、エアコンから分離した4株(NBRC 114833、NBRC 114834、NBRC 114835、
NBRC 114836)を公開しました。エアコン等の空調機器材料の防菌防カビ性能評価への活用
が期待されます。また、ユズの皮から分離したGalactomyces citri-aurantii NBRC 114535
を公開しました。本菌は柑橘類の白かび病の原因菌として知られている一方、飲料に好まし
いフレーバーを与える酵母としても利用されています。
糸状菌では、食品汚染菌(変敗ゼリー製品由来)である耐熱性カビ7株(NBRC 114677、
NBRC 114678、NBRC 114679、NBRC 114680、NBRC 114681、NBRC 114682、NBRC 114683)
を公開しました。文献から耐熱性試験の結果も参照できます。ぜひご活用ください。
【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html
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2.微生物あれこれ(53)
Lactobacillus属が25属に再分類されました (宮下美香)
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近年、ゲノム解析技術の急激な進歩に伴い、ゲノムデータに基づいた分類体系の検証が
盛んに行われています。
Lactobacillus属は1901年に提案された属で、Firmicutes門Bacilli綱Lactobacillales目
Lactobacillaceae科に属します。Lactobacillaceae科はLactobacillus属の他に
Pediococcus属とParalactobacillus属を併せた3属から構成されていましたが、2011年に
Paralactobacillus属がLactobacillus属に統合されたため、それ以降はLactobacillus属
とPediococcus属の2属となりました。Lactobacillus属は、生息環境が幅広く、発酵食品
や動物の消化管にも生息していて、ヒトにとって重要な分類群のひとつであるため研究も
盛んに行われており、260を超える種が存在する非常に大きな属でした。
今回のゲノムデータに基づく再分類では23の新しい属が提案され、従来の
Lactobacillus属は、既存の学名であるLactobacillus属と復活したParalactobacillus属
を合わせた25属に再分類されました。またPediococcus属からは2種が前述の25属のうちの
1つであるLapidilactobacillus属に移されました1)、2)。これにより、Lactobacillaceae科
は現時点(2021年時点)で、26属で構成されることになりました。
ゲノムデータに基づく今回の報告以前にも、16S rRNA遺伝子塩基配列に基づく系統解析
から、Lactobacillus属には幾つかの系統グループがあることが報告されていました。更に
遡ればLactobacillus属は1986年のBergey’s Manual of Systematic Bacteriology 第2巻
では発酵形式によって3つのグループ(絶対ホモ発酵型、通性へテロ発酵型、絶対ヘテロ
発酵型)に分けられていました。この発酵型(ホモ発酵型とヘテロ発酵型)は、16S rRNA
遺伝子塩基配列に基づく系統グループとも一致しています。またDuarらの研究によれば、
分離源や分離頻度、代謝能力や生育温度、環境ストレスに耐えうる能力に基づいて、
Lactobacillus属の種をfree living、host adapted、nomadicの3つのグループ(lifestyle)
に分けており、それらが系統グループと関連していることを報告しています3)。今回23属
を提案したZhengらの報告で提供されているSupplementary materialの表(S1)にも、こ
れら系統グループとLifestyleの情報が含まれていますので、新しい属やそこに含まれる
種との対応を確認することが出来ます。
表現性状は菌株利用において重要な情報であり、今回、表現性状と相関性のある系統グ
ループに対応する形で属レベルの再分類がなされたことで、属と表現性状の関係がわかり
やすくなったと思います。まだまだ見慣れないですが、弊機構ウェブページに学名の新旧
対応表を掲載しましたので是非ご活用ください。
【Lactobacillus属の再分類に伴う学名変更の新旧対応表】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/information/20210201.html
参考文献
1) Zheng, J. et al. (2020). Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 70, 2782-2858.
2) Liu, D.D. & Gu, C.T. (2020). Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 70, 6414-6417.
3) Duar, R.M. et al. (2017). FEMS Microbiol. Reviews. 41, S27-S48.
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3.「微生物有害情報リスト」と「MiFuP Safety」の相互参照機能の公開について
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NBRCでは、微生物の有害性に関わる情報の総合サイト「M-RINDA(エム・リンダ)」を
提供しています。「M-RINDA」は、細菌/真菌の危険度分類や法規制情報を一元化した「微
生物有害情報リスト」と、微生物のゲノム情報から有害性を推定する「MiFuP Safety
(ミファップ・セーフティ)」の2つのデータベースで構成されています。
この度、これら2つのデータベース間を相互に参照できる機能を追加しました。これに
より、「MiFuP Safety」に収録している有害性に関する機能と、その機能を有する「微生
物有害情報リスト」の細菌の学名とが対応付けられ、双方の情報にスムーズにアクセスで
きるようになりました。例えば、「MiFuP Safety」の【破傷風毒素】の情報を参照すると
同時に、この毒素の産生菌である破傷風菌【Clostridium tetani】が、家畜伝染病予防法
の規制対象であり、複数の機関においてBSL2に指定されていることが「微生物有害情報リ
スト」からすぐに確認できます。現在は、「MiFuP Safety」の24の有害性機能について、
「微生物有害情報リスト」との相互参照が可能です。
「M-RINDA」は以下URLより無料でご利用いただけます。微生物の有害性に関する情報の
確認に是非ご活用ください。
【M-RINDA】 https://www.nite.go.jp/nbrc/mrinda/
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4.MALDI-TOF MS微生物同定用ライブラリーの追加提供のお知らせ
(Cladosporium属、Lactobacillus属)
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NBRCでは、迅速な微生物同定を技術的に支援するため、MALDI-TOF MS微生物同定用ライ
ブラリーを構築し公開しています。この度、市販ライブラリーには含まれない糸状菌
Cladosporium属16株を用いてMALDI-TOF MS用微生物同定システムであるMALDI Biotyper(R)
(ブルカー社製)およびSARAMIS(TM)Premium(ビオメリュー社および島津製作所社製)
の両者に対応したマススペクトル・ライブラリーを作成し、公開しました。
また、乳酸菌Lactobacillus属(※)51株を用いたSARAMIS(TM)用のSuperSpectraライ
ブラリーも追加公開しました。是非ご利用ください。
なお、MALDI Biotyper(R)ライブラリーは2月より公開しています。
※「2.微生物あれこれ」で紹介した参考文献Zheng et al., 2020により異なる属に再分
類された種を含みます。
【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/maldi/maldi.html
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5.YouTube動画公開のお知らせ
~微生物の凍結保存方法(糸状菌編)~
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「微生物の凍結保存方法(糸状菌編)」をYouTube動画で公開しました。液体窒素で保
存する場合やQ&Aも掲載しています。是非、ご活用ください。
【微生物の凍結保存方法(糸状菌編)】
https://www.youtube.com/watch?v=JQO9OFPuB4k
【動画で見る微生物取り扱いのコツ】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/support/ampoule.html
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6.NBRC株オンライン分譲依頼サービスの開始について
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NBRCでは、NBRC株の分譲依頼をオンラインカタログ上で行うことができる「NBRC株オン
ライン分譲依頼サービス」を3月16日に開始いたしました。
これまでNBRC株の分譲のご依頼に際しては、Eメール、FAX、または郵送にて分譲依頼書
をご提出いただいておりましたが、オンラインによるご依頼が可能となりました。また、
マイページから注文履歴等の確認を行うことも可能です。以下のURL、もしくはNITEバイ
オテクノロジーセンターのウェブページ右側のバナーよりアクセス可能ですので、是非、
ご利用ください。
※ サービスをご利用される方は、最初にアカウント登録をお願いいたします。
※ お支払いについては、従来通り銀行振込またはクレジットカードでの支払いとなりま
すが、クレジットカードの場合、オンライン上での支払決済は行えませんのでご注意くだ
さい。ご依頼受注後にEメールにてクレジットカードでのお支払い方法をご案内いたします。
※ 引き続き、Eメール等での依頼書提出による分譲依頼も受け付けますが、今後はでき
る限りオンラインでの依頼をお願いいたします。
【NBRC株オンライン分譲依頼サービス】
https://www.nite.go.jp/nbrc/catalogue/NBRCDispSearchServlet?lang=ja
【バイオテクノロジーセンター】 https://www.nite.go.jp/nbrc/index.html
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7.NBRC株・DNAリソース・NBRC微生物カクテルの発送休止について
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NBRCでは以下の期間中、発送を休止させていただきます。大変ご迷惑をおかけいたしま
すが、ご理解いただきますようお願いいたします。
システム更新作業に伴う発送休止期間:2021年4月1日(木)~ 4月6日(火)
GW期間中の発送休止期間 :2021年4月24日(土)~ 5月9日(日)
※4月の手数料改定以降に依頼書を受領したものについては、改定後の手数料を適用しま
す。改定後の手数料は「8.手数料改定のお知らせ(再掲)」をご覧ください。
※クレジットカード払いの場合は、別途、発送日をご連絡いたします。
※分譲受付が集中する場合や分譲標品の形態等により、発送日が前後することがございま
す。
【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/information/holiday.html
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8.手数料改定のお知らせ(再掲)
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NBRCでは、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針(平成22年12月7日閣議決
定)※」に基づき受益と負担の適正化を考慮し、実費を勘案した手数料を利用者の皆様
にご負担いただいております。この度、直近の実費に基づき見直した結果、2021年4月1日
より手数料を改定させていただくことになりました。
新しい手数料の額などの詳細は、以下のURLよりご確認ください。今後も円滑な事業継
続に努めて参りますので、利用者の皆様にはご理解とご協力を賜りますよう、何卒宜しく
お願い申し上げます。
2021年4月1日より手数料を改定する業務
◆NBRC株の分譲関連
◆DNAリソースの分譲関連
◆生物遺伝資源バックアップサービス
◆NBRC微生物カクテルの提供
◆L-乾燥標品の調整サービス
◆継続保管
【NBRCの手数料改定に係るお知らせおよび手数料一覧】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/information/amendment_of_fee_2021.html
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/charge/fee.html
※独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針(平成22年12月7日閣議決定)」において、
「特定の者が検査料、授業料、利用料、配布価格、技術指導料等を負担して実施する事業
については、受益者の負担を適正なものとする観点から、その負担の考え方を整理し、こ
れに基づき、国民生活への影響に配慮しつつ検査料等の見直しを行う。」とされておりま
す。
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編集後記
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最近、「サステナブル」という言葉をよく耳にします。地球環境を壊さないように、資
源を使いすぎない持続可能な社会を目指した取り組みからきた言葉です。割引シールのつ
いたスーパーの見切り品が大好きな私は、なにも考えずに食品ロス軽減に貢献し、昔から
「サステナブル」な取り組みをしていたということにふと気がつきました。(KY)
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れることを禁止します。
・偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信します。第69号は2021年6月1日に配
信予定です。
編集・発行
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター(NBRC)
NBRCニュース編集局(nbrcnews@nite.go.jp)
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生物資源利用促進課
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TEL:0438-20-5763
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