化学物質管理

QSARプロジェクトについて

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 OECDのQSARプロジェクト【外部サイト】は、QSARの行政利用を推進することを目的とした活動です。NITEは、2003年1月のQSAR専門家グループの設立当初から本活動に積極的に関与し、本OECD活動の成果を有効に活用することにより、NITEが実施しているQSAR評価の国際整合性を確保しています。ここではOECD QSARプロジェクトの概要とNITEとの関わりについて紹介します。
 QSARに関する用語については、「QSAR、Read-across、IATAに関する用語集・リンク集」のページをご参照ください。

1. QSARバリデーション原則

 化学物質管理規制等においてQSARを利用する際には、利用するQSARが対象とする利用目的に適した性能を備えていることを事前に確証(バリデーション)することが必要となります。OECD QSARバリデーション原則1)は、QSARをバリデーションする際に指標とすべき項目を5つの原則としてまとめたもので、2004年11月に加盟国からの合意を得て制定されています。
 NITEは、バリデーション原則作成の際の議論に参加し、QSARバリデーション原則の案を実際のQSARモデルを適用しその妥当性を評価する活動に参加しました1)
 現在、NITEが化審法の審査に利用している全てのQSARモデルは、OECD QSARバリデーション原則に基づきNITEがバリデーションを実施したものです。
 QSARバリデーションを実施する具体的な方法について解説したガイダンス文書【外部サイト】が2007年に公開されました。この文書にはQSARの基本事項や用語に関する解説も含まれています。

1) Sakuratani, Y. Kasai, K. Yamada, J. Noguchi, Y. 2004. CERI Biodegradation Prediction System. OECD Series on Testing and Assessment Number 49; The Report From The Expert Group on (Quantitative) Structure-Activity Relationships [(Q)SARs] on The Principles for The Validation of (Q)SARs, (OECD, Paris) ANNEX 10, p186-197.【PDF:外部サイト】

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2. QSAR評価に関するガイダンス文書(QSAR Assessment Framework)

 OECDは、2023年にOECD QSAR Assessment Framework(QAF)ガイダンス文書(第1版)を、2024年にはQAFガイダンス文書第2版【外部サイト】を公表しました。本文書は、QSARモデル、予測及び「複数の予測からの結果」を化学物質管理規制で用いる際に基準となる、体系的かつ調和のとれた枠組みを提供することを目的とし、主なターゲットは規制当局とその利害関係者です。QSARモデルのバリデーションに関する原則は2004年に合意されましたが、本文書ではそれに加えて、QSAR予測及び「複数の予測からの結果」についての原則並びに、QSARモデル、予測及び「複数の予測からの結果」の各原則に対して規制当局が評価すべき評価要素(Assessment Element: AE)が含まれています。
 NITEからは当該プロジェクトに専門家として参加し、ガイダンス文書作成に貢献しました。また、ガイダンス文書に付属するQAFチェックリストを使用した例を提出し、ガイダンス文書の検証に活用されました。NITEが提出したQAFチェックリストの例は、用いたQSARモデルなどの概要を紹介したプレゼン資料及び動画とともに、OECDのHP【外部サイト】より公開され、その普及にも貢献しています。
 さらに、NITEは、QAFチェックリストを化審法に適用することを提案し、2025年1月には国の審議会において化審法リスク評価への採用が承認されました。詳細は、「化審法における分解性評価のための Weight of Evidence の実施マニュアル」【外部サイト】をご覧ください。

 

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3. QSAR Toolbox

 QSAR Toolbox【外部サイト】は、カテゴリーアプローチによる評価を支援するためのシステムであり、OECDのホームページから無料で公開されています。QSAR Toolboxには、各国から提供された種々の有害性試験データや、化学物質をグループ化するツールなどが集積されています。これらにより、カテゴリーアプローチに使用するデータや評価手法の国際共有化が図られ、国際整合性を持った評価が行える仕組みとなっています。
 QSAR Toolboxは2008年3月に最初のバージョンが公開され、その後、継続的にデータ更新や機能の改良が行われています。QSAR Toolboxの管理・運営は、前述のQSAR専門家グループにより行われています。
 NITEは、QSAR Toolbox専門家グループにおける議論に参画すると共に、QSAR Toolboxに化審法の既存化学物質の分解性・蓄積性の試験データを提供するなどの貢献を行ってきました。METI/NEDOプロジェクトで開発したHESSシステムは、QSAR Toolboxと互換性のあるシステムとして、OECDの関連グループと連携しつつ開発を行い、QSAR Toolboxには、HESSの反復投与毒性試験データや反復投与毒性を対象に化学物質をグループ化するツールが搭載されています。
 NITEでは、QSAR Toolboxを化審法の少量新規化学物質の評価などにおいて活用しています。
また、QSAR Toolboxの活用方法やQSAR Toolboxのマニュアル類の和訳を「動物実験代替法のQSAR Toolboxのページ」で紹介しています。

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4. AOPに基づくカテゴリーアプローチ

 カテゴリーアプローチによる評価の信頼性を向上させるためには、有害性発現のメカニズムが類似する物質群をカテゴリーとして捉えることが重要となります。しかしながら、一般に化学物質の有害性発現のメカニズムの類似性を検討することは容易ではありません。
 OECDでは、有害性発現のメカニズムが類似する物質を認識する際の手掛かりとするため、有害性発現のメカニズムに関する知見をAdverse Outcome Pathway (AOP)【外部サイト】というコンセプトに基づいて整理することを推奨しています。
 AOPとは、ある発現毒性について、毒性の原因となる分子レベルの反応から、細胞レベル、臓器レベル、生体レベルなどを経て、最終的な有害性発現に至るまでの、各レベルにおける毒性メカニズムの知見を整理し、それらの因果関係を経路として表したものです。AOPを利用することにより、反復投与毒性など構造と発現毒性の相関を見出すことが困難なエンドポイントに対しても、容易にカテゴリー作成ができるようになるものと期待されています。
 NITEでは、OECDにおけるAOPの議論に参画しつつ、HESSプロジェクトで収集・整理した情報と毒性・病理学の専門家の知見を基に、反復投与毒性のカテゴリー化のための方法論の確立を向けた検討を進めてきました。その結果、AOPに基づく信頼性の高い反復投与毒性のカテゴリーをいくつか見出し、これらのカテゴリーを基にしたデータギャップ補完の事例を作成することに成功しました。NITEが作成した事例の一つは、2010年12月に開催されたAOPに関するOECDの最初のワークショップでのケーススタディとして取り上げられ、議論の題材に用いられています4)。
 このワークショップでの議論の結果を基に、OECDにおけるAOP開発計画が策定され、種々の発現毒性を対象としたAOPの開発【外部サイト】が進められています。また、OECDテストガイドラインでは、AOPを応用したDefined Approachが採用されています(TG497:Skin Sensitisation【外部サイト】TG467:Serious Eye Damage and Eye Irritation【外部サイト】)。
 NITEは、OECDでのAOP開発の動向を把握しつつ、ここで開発されるAOPをカテゴリーアプローチ等の実際の評価において有効に活用する方法について検討を進めています。

4) Hayashi, M. and Sakuratani, Y. 2011. Hemolytic anemia induced by anilines and nephrotoxicity induced by 4-aminophenols. In: OECD Environment, Health and Safety Publications Series on Testing and Assessment No. 138 , Report of the Workshop on Using Mechanistic Information in Forming Chemical Categories. (OECD, Paris): Annex 8.【PDF:外部サイト】

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5. IATAに関する活動


 Integrated Approaches to Testing and Assessment (IATA)とは、多様な情報(物理化学的性状、read-across、in vitro、in vivo等)を組み合わせることより、化学物質の毒性等を統合的に評価する実用的で科学的なアプローチ手法です(動物実験代替法のページも併せてご覧ください)。IATAでは、化学構造、物理化学的性質(例えば、分子量、pKa、Log Kow)、グループ化アプローチからの外挿(例えば、カテゴリーの形成や類推によるデータギャップ補完)、(Q)SAR予測、in vitro試験結果、関連する動物やヒトのデータおよびそれらの組み合わせ(例えば定義されたアプローチによるテストと評価の結果)が使用されることがあります。
 この中で動物試験を行わない(Q)SAR、read-across、in vitroなどで評価することにより、動物試験数を減らすことが可能となります。
 IATAの全体的な評価は、WoE(Weight-of-Evidence)に基づいて行われます。 WoEとは、毒性やリスクの決定に関与する利用可能で科学的に正当な情報に基づいて、専門家が随時判断していくことを意味しています。 WoEにおける全体的な評価プロセスは、利用可能な情報のそれぞれ異なる部分について、相対的な価値/重みの評価を行うことです。 WoEでは、導き出された結論を裏付ける信頼性の根拠を示すために、透明性をもって説明され、文書化される必要があります。OECDからは、WoEに関するガイダンス文書が公表されています。
 OECDでは、CoCAP (Cooperative Chemicals Assessment Programme) が改訂され、2015年からIATAの開発と適用を目指す活動に力を入れるために、新たにIATA Case Studiesプロジェクトが発足しました。このプロジェクトでは、化学物質の有害性を評価する新たな手法に関する科学的情報の交換の場を提供し、多様な化学物質を評価するためのこれらの手法の適用方法や成功事例を確立することを目指しています。
 具体的な活動としては、毎年メンバー国から提出されるIATAを用いた化学物質の評価事例に関するケーススタディ文書について議論し、本手法が規制行政にどのように適用できるのかを検討しています。 NITEはIATA Case Studiesプロジェクトに参画しており、2015年に肝毒性及び蓄積性の評価に関する2件のケーススタディ文書をOECDに提出しました。提出した2件は2016年9月にOECD化学品合同会合により承認され、OECDのHP【外部サイト】 から公開されています。

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最終更新日


2025年5月16日

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独立行政法人製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター
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